家族が亡くなり相続が発生したら、まず「何を」「いつまでに」すればいいのか。相続で揉めないために、そして相続税を節税するために、何を準備しておくべきなのか。相続に詳しい司法書士と税理士に聞いた。

AI頼みの相続には思わぬ落とし穴が…

夫が残してくれた預貯金の相続手続きをするために銀行を訪れたAさんでしたが、そこで思いもしなかったことが告げられました。

「本来、法定相続人でいらした娘さんが相続放棄をされたわけですね。そして、被相続人であるご主人のご両親もすでに亡くなられているわけですから、ご主人側のお姉さまが法定相続人になります。相続手続きには、そのお姉さまの戸籍と印鑑証明書も必要です」

実のところAさんの一人娘は、父親の遺産である預貯金を母親の生活資金に充ててほしいと考え、預貯金の相続を放棄することにしました。そして、遺産を放棄したい場合は何の手続きが必要なのかをAI(人工知能)で調べると、「相続放棄の申述手続き」に関する回答が出てきたため、申述書や自分の戸籍などの書類を揃え、家庭裁判所で手続きを済ませていました。

その結果、娘さんは法定相続人ではなくなったのです。「相続放棄」は、「はじめから相続人とならなかったとみなす」という制度。法定相続人の対象が、法律で定められた順位に従って、ご主人の両親、きょうだいへと繰り下がっていき、Aさんの場合は義理の姉が法定相続人になったというわけです。

「めったに顔を見せず、義理の父母の面倒を長男の夫と私に押し付けてきた義理の姉に、夫が遺してくれた預貯金を相続する権利があるなんて……」と憤懣ふんまんやるかたない表情のAさんですが、法律で定められたことなので従わざるをえません。残念なのは、娘さんがAIの回答を鵜呑うのみにしたこと。娘さんは、「遺産分割協議」の場で預貯金の相続について放棄するだけでよかったのです。そうすれば、預貯金は全額Aさんが取得することができました。

相続トラブルを回避するには、事前の準備や心構えが重要になってきます。いざというときに慌てることなく相続手続きを円滑に進め、遺産をしっかり承継するために必要となる、相続に関する基礎的な知識を紹介していきます。

Part 1 遺産の調査と相続手続き
一人暮らしの老親が死亡……そのとき、預貯金口座を特定する手がかりになるもの

兄弟姉妹が相続人になるケースとは

まず、法律に従い、誰が相続人(遺産を承継する人)になるのかを押さえておきましょう。被相続人(亡くなった人)に配偶者がいる場合、配偶者は常に相続人になります。ただし、内縁や事実婚であると、法律上は配偶者として認められません。その配偶者以外の親族は、次のような順位で配偶者と共同で相続人になります。配偶者がいなければ、次の順位の者のみが相続人になります。例えば、被相続人に配偶者がおらず、子がいる場合、子のみが相続人になります。

第1順位は、子、孫、ひ孫の「直系卑属」です。子は実子や養子にかかわらず相続人になります。被相続人の死亡前に子が死亡しているときは、孫が相続人になり、これを「代襲相続」といいます。そして、その孫も亡くなっていたら、ひ孫が相続人になる「再代襲相続」になります。

第1順位の相続人が誰もいない場合、被相続人の父母(養父母を含む)、祖父母、曾祖父母の「直系尊属」が第2順位の相続人になります。被相続人の死亡時に父母も祖父母も生存しているときは、死亡した人に近い世代である父母が相続人になります。仮に父母が離婚していても、どちらも相続人になります。父母の一方のみが生存している場合は、その者のみが相続人になり、父母がいずれも死亡している場合には、さかのぼって祖父母が相続人になります。

第1順位と第2順位の相続人が誰もいない場合、第3順位として被相続人の「兄弟姉妹」が相続人になります。冒頭のAさんのケースは、これに当たります。兄弟姉妹がすでに死亡しているときは、その子である甥や姪が相続人になります。ただし、兄弟姉妹だけでなく、甥や姪も死亡している場合、第1順位の直系卑属の場合と異なり、又甥や又姪への再代襲相続にはなりません。