人気漫画『ワンピース』は、『週刊少年ジャンプ』に連載している。だが、開始時の編集長だった鳥嶋和彦さんは、連載に反対していた。鳥嶋さんは、「キャラクターの勢いや、話を書こうとする力はある。でも、コマ割りが分かりにくい。だから雑誌に連載する漫画としては問題があった」という――。
鳥嶋和彦(とりしま・かずひこ)
撮影=門間新弥
鳥嶋和彦(とりしま・かずひこ)。漫画編集者。1976年、集英社に入社。『週刊少年ジャンプ』編集部に配属される。鳥山明、桂正和、稲田浩司など人気漫画家を発掘育成。93年にゲーム情報誌『Vジャンプ』の創刊編集長に就任、96年に『週刊少年ジャンプ』6代目編集長に就任。

マネジメントで意識すべきは「人と自分との違い」

――現場である漫画編集と、それを管理する編集長の両方を経験されていますが、求められるスキルの違いはありますか。

【鳥嶋】たったひとつ。誰をよく見るか。編集長の時は編集者を見る、現場の時は作家を見る。その違いだけ。

――「よく見る」ということは共通しているんですね。

【鳥嶋】一緒。僕は副編集長になって衝撃的なことに気がついた。それまでは自分の仕事だけやっていたわけです。僕は合理的に仕事をするから、原稿を1回も待ったことがない。ところが、副編になると、すべての原稿を見て、入稿しなくちゃいけないんだけど、原稿が本当にあがってこない。そのとき初めて、自分の仕事の仕方とほかの人間の仕事の仕方がまったく違うと気付いた。

『少年ジャンプ』って当時、3~4人の班にわかれていたんだけど、3カ月毎に自分の目の前の班を入れ替えた。そうすると、誰が誰と話しているか、それぞれの人間がどういう興味を持っているか、といったことがわかってきた。マネジメントで大事なことは「人と自分が違うことをまず認識できるかどうか」なんです。

――違いを認めるんですね。

【鳥嶋】面白い・面白くないという判断だって全員一緒じゃない。人によって見る視点、感じ方はバラバラ。だからいい。バリエーションが必要なの。ということは、まず多様性を許容しなきゃいけない。価値観が違うってことは、仕事の仕方も違う。だから、ルールや評価を明快にすると同時に、自由をどう与えるか。

――ルールさえ守っていれば、あとは自由にやっていいよってことなんですね。

【鳥嶋】僕が『少年ジャンプ』の編集長になったときに部下に言ったのは、「1日1回連絡を入れたら、どこに行ってもいい」っていうこと。元気でやってるかってことがわかればいい。あがってくる原稿を見れば、仕事をちゃんとしているかはわかるから。

部下に一生懸命仕事をさせる簡単な方法

――そうやって自由を与えるのは、勇気のいることだと思いますが。

鳥嶋和彦さんの近著『ボツ 「少年ジャンプ」伝説の編集長の“嫌われる”仕事術』(小学館集英社プロダクション)では、『ドラゴンボール』や『ワンピース』といった鳥嶋さんが関わった人気漫画の逸話が赤裸々に明かされるとともに、仕事論が余すことなく綴られている。
鳥嶋和彦さんの近著『ボツ 「少年ジャンプ」伝説の編集長の“嫌われる”仕事術』(小学館集英社プロダクション)では、『ドラゴンボール』や『ワンピース』といった鳥嶋さんが関わった人気漫画の逸話が赤裸々に明かされるとともに、仕事論が余すことなく綴られている。

【鳥嶋】これは『ファイナルファンタジー』を生んだ坂口博信さんの考え方に学んだ部分が大きい。彼は新作ごとに「鳥嶋さん、今回の天才はこいつです」ってメインに仕事を任せる人を紹介してくれるわけ。その人がいなくなったあとで「心配じゃない? 本当に仕事できるの? どういうふうにチェックするの?」って聞いたら「いや、チェックしません」と。

「鳥嶋さん、逆の立場に立ってみて。『任せる』って言われて、上司がいつも『これ、どうなってる?』といってチェックしてきたら、本当に一生懸命仕事やれますか。やれないですよね。できないやつだったらそれで安心だけど、できるやつであればあるほど、邪魔だと思いませんか」。だから、チェックしないんですよ。

――チェックされないほうが、部下の責任感も増しますしね。

【鳥嶋】チェックしない勇気と、チェックされないことの怖さ。部下は一生懸命、仕事せざるを得ないんだよね。セルフマネジメントしなきゃいけない。