※本稿は、牛田享宏『「痛み」とは何か』(ハヤカワ新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
「ケガをしたら安静に」の弊害
体を動かすための器官である運動器(頸・肩・腰・膝など)に引き起こされる痛みは動かした時に悪化することが多いものです。その際、ぎっくり腰や膝関節症、あるいは骨折や打撲といった外傷の場合、動かさなければ痛くないことから、安静にするという行為は病気やケガの初期対応としては有効な治療手段となります。
実際、骨折にしても捻挫にしてもギプスなどで局所を動かないようにすることで速やかに痛みが改善するものですし、それにより骨の癒合や組織の治癒が早まるのは多くの方が知るところです。
しかし、本来動くべき部分を長期間動かさずにいることが続くと、大きな弊害が出てきて、結果として痛みを悪化させることにつながるケースも非常に多いのです。これにはいくつかのメカニズムがあり、それぞれが絡み合ってさらなる悪化につながるので、知っておくことは大変重要です。
10日で筋力が落ち始める
関節や筋組織を動かさないでいると、次のようなことが起こります。
(1)組織は固まって動きにくくなり、動かすと痛くなる
動かさないでいると、筋肉は1日あたり0.5~1パーセントほどその体積が減少し、筋力も低下すると言われています。これには、一つひとつの筋組織の周囲の膜が厚くなって動きにくくなったり、関節軟骨のダメージや関節そのものの滑膜の癒着など(※1※2)が原因で運動能力が低下したりすることも関係しています。
こうした変化は動かさなくなってからおおむね10日後くらいから見られる反応です。逆にいったん固まった病態を改善するためには、これらの組織を動かすことが必要となります。具体的にはストレッチングを行なったり、あるいは麻酔を施した上で関節を動かしたり(関節授動術)といったことが医療の現場では行なわれます。
とはいえ無理やり動かすと組織への外傷の原因ともなるため、痛みがかえって悪化することもあります。
また、これは直接痛みとは関係ないことですが、動かさないでいると筋組織は、タイプ1線維(赤筋)という持久力に優れたタイプが減少し、タイプ2線維(白筋)という持久力に乏しいタイプ主体に置き換わることが知られています(※3)。
従って、我々の体に痛みが生じた際には、動かせるタイミングになったところですばやく関節や筋肉の柔軟性を養い、筋力維持・アップのためのリハビリテーションを行なうことが必要です。

