97年に得度した僧籍の人で、日航会長にも要請されて無給で就任。社会奉仕に徹したら、自分のスピーチが他者にどう映るかなどは考えなくなるのかもしれないと佐藤氏は指摘する。
「ただ、自分の経歴を語るところなど、さすがに聞かせどころを押さえています。記者クラブでも、スタートから9分34秒までJALの話ではなく、京セラや盛和塾、子どもたちを支援する社会福祉法人の活動などを紹介している。苦労を重ねた人だからこそできる話の組み立て方です。勘所がわかっているから、無駄なエネルギーを使って無理をする必要がないのです」
27歳の京セラ創業から語るべき経験は豊富で、これまで多くの経営者に向けて発信してきた実績はたしかなもの。
「経営になぜ哲学が必要か」という動画では、巧みなストーリー構成と説得力のある語り口が堪能できる。
「学ぶべきは、稲盛さんのストーリー・テリングです。これまでの自身の経験を語ることで、自分のスタイルを確認し、価値観やありたい姿を再認識する。その繰り返しが現在の稲盛さんをつくったともいえます」
ストーリー・テリングは、場数を踏んでこそ鍛えあげられる。その力が聞く人の心を引きつけることは間違いない。
(小倉和徳、若杉憲司、澁谷高晴=撮影)