茶の産地として知られる宇治で、かつてない異変が起きている。最高級の抹茶を求めて外国人観光客が殺到し、老舗の茶店では販売中止に追い込まれる事態に。品薄は海外でも深刻で、NYタイムズなどの海外メディアが「抹茶争奪戦」として大々的に報じ始めた。日本の抹茶に何が起きているのか――。
ブランク・ストリート・タトゥー・スタジオにて。5月9日と10日にロンドンで開催されるザ・ロンドン・ソーシャルとの共同ポップアップの一環として、無料のファインライン・タトゥーとアイス抹茶を提供している=2025年5月9日
写真=PA Images/時事通信フォト
ブランク・ストリート・タトゥー・スタジオにて。5月9日と10日にロンドンで開催されるザ・ロンドン・ソーシャルとの共同ポップアップの一環として、無料のファインライン・タトゥーとアイス抹茶を提供している=2025年5月9日

米紙が報じた「深夜0時の抹茶争奪戦」

深夜0時。オレゴン州に住むナリタ・ナレットさん(25)のスマートフォンに通知が届く。狙っていた日本産抹茶が入荷したという知らせだ。彼女は息を止めてウェブサイトを開き、前もってカートに入れてあった商品の購入ボタンをすかさずクリックする。画面が切り替わり、購入完了の表示。ようやく念願の抹茶を確保できた。米ニューヨーク・タイムズ紙が報じた、争奪戦の一幕だ。

争奪戦に必至なのは、個人の抹茶愛好家だけではない。アメリカ西海岸のカフェ業界全体に、抹茶不足の激震が走っている。米サンフランシスコ・クロニクル紙は、サンフランシスコ湾岸地域(ベイエリア)のカフェやレストランが深刻な抹茶不足に陥っていると報じる。

スターバックスの一部店舗でも在庫切れ

リッチモンド地区とドッグパッチで人気のアジアン・アメリカン・ベーカリー「ブレッドベリー(Breadbelly)」は、ついに抹茶ドリンクの提供停止に踏み切った。京都の仕入先からの供給が途絶えたためだ。一方、仕入れ価格の60%値上がりに見舞われたカフェ「アンディータウン(Andytown)」は、10種類もの代替品をテストし、苦肉の策として健康食品を混ぜた抹茶風ミックスドリンクの採用まで検討している。

何とか抹茶の提供を続けようとする店もある。バークレーで15年間抹茶を輸入してきた「ブルー・ウィロー・ティー(Blue Willow Tea)」のオーナー、アリ・ロスさんは、仕入れコストが倍増したにもかかわらず、値上げは20%に抑えた。

ニューヨーク・タイムズ紙に対し、「人々にはお茶が必要ですから」と語る彼女の言葉には、お茶文化の一翼を担う店としての矜持がにじむ。だが、こうした努力にも限界がある。英コスモポリタン誌によれば、大手チェーンのスターバックスですら一部店舗で在庫切れが発生し、ネット掲示板のレディットでは利用客たちの不満が爆発しているという。

品薄はオーストラリアでも深刻化している。卸売り業の「メゾン・ココ(Maison Koko)」オーナーのマシュー・ヨン氏は今年5月、100万豪ドル(約9600万円)を一括前払いして、向こう6カ月分の抹茶を確保した。年間11トンを販売する同社にとってさえ、週単位での購入では供給を確保できなくなったのだ。