仏教は心の科学です。ブッダが説いているのは、ブッダが発見した世の中の「真理」です。世の中について、生命について、人の心について、宇宙について考え抜いて知ったもの、つまり普遍的な法則、真理を伝えているのが、ブッダの言葉なのです。世の中にあることをそのまま、少しもねじ曲げることなく、こうなっていますと説明することは科学です。いわゆる物理・科学が物質を対象とするのに対して、ブッダの場合は心を研究し、生きるということをテーマとした科学なのです。生きることはなぜ苦なのかを突き詰めた科学なのです。


著書『ブッダの聖地』より。(※)
撮影/相田晴美

テーラワーダ仏教(上座仏教)はブッダの教えに最も忠実なものです。仏教が世界各地に伝播し、それぞれの開祖によって各種の発展を遂げる以前の、最も初期の仏教。ブッダが実際に説法に用いたパーリ語(古代インドの俗語)のオリジナル経典に基づいた仏教です。阿弥陀仏など諸仏の存在は認めず、菩薩への信仰もありません。極楽浄土があるとも言いません。

ブッダが辿り着いた「悟り」の境地に近づくために、私たちは瞑想を行っています。たとえばその1つはヴィパッサナーと呼ばれる瞑想法で、その瞬間に起こっていることをありのまま見つめることによって、洞察力を養うもの(深呼吸後、下腹部が受動的に動くのに合わせ、その感覚を「膨らみ」「縮み」と心の中で淡々と実況中継する等)です。

変化に合わせて「自分」を変えていく

私たちが生きることの本質は「苦」であることを認め、安定はない、すべては変わるのだ、と知った人には大きな勇気が生まれます。「すべては変わる」ということは、「すべては変えられる」ということです。変化に合わせて、自分も変わればいいのです。どんどん挑戦すればいいのです。変わることを恐れているうちは、不安から解放されず、自由と安らぎも得られません。経済が悪い、国が悪い、環境が悪いと嘆くのではなく、みずからを変える勇気をもってください。諸行は無常です。自分が生きる世界は、自分で築くことができるのです。

(写真※注)スマナサーラ長老は2009年11月にインドへ赴き、ブッダ生誕の地、入滅の地など「8大聖地」を巡礼した。写真は祇園精舎にあるアーナンダ菩提樹を参拝したときのもの。菩提樹の周りを時計回りに3周して礼拝し、その根元に聖水を注ぐのが参拝の慣例。

スリランカ上座仏教長老 アルボムッレ・スマナサーラ
1945年、スリランカ生まれ。13歳で出家得度。国立ケラニヤ大学で仏教哲学の教鞭をとる。80年に来日。駒澤大学大学院博士課程を経て、現在は日本テーラワーダ仏教協会で初期仏教の伝道と瞑想指導に従事。ベストセラー『怒らないこと』『バカの理由』ほか著書多数。右の写真は、釈迦牟尼(ブッダ)の身体から発したとされる後光の色を配した「五色の仏教旗」。
(構成=小山唯史 撮影=的野弘路)
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