他部署の人と口論になったら、どうするか?
さて、あなたはどちらのタイプでしょう?
社内の他部署の人と仕事上で行き違いが生じ、お互い感情的になって、口論になってしまいました。周囲の人に止められてその場は収まりましたが、相手の言い分には納得していません。そのとき、あなたなら、どう考えますか?
A:こちらの主張のほうが正しいのに、相手が感情的になって反論してきたのは、そもそも私のことが気に入らないのではないか。次にまた何か言ってきたら倍返しでぐうの音も出ないようにしてやる。
B:冷静になって考えても、こちらの主張のほうが正しいと思うが、部署による利害の違いがあり、彼には彼の考えもあるのだから、感情的にならずに相手がなぜそう考えるのかをもっと聞いても良かった。
自分の性格特性やついやってしまう行動パターンを理解しておくことは、戦いを有利に進めるためにも必要なことでしょう。孫子の兵法ではどんなことを教えてくれるのか、今回も見ていきましょう。
逃げても良し避けてもOK
自分のライバルや敵と常に競争し、戦いに勝たなければならないといっても、長い人生には、好不調もあり、タイミングもあり、敵との力関係もあり、取り巻く環境の変化や時流の変化もあって、必ず勝てるとは限りません。
孫子はこう言っています。
「用兵の法は、十なれば則ち之を囲む。五なれば則ち之を攻む。倍すれば則ち之を分かつ。敵すれば則ち能く之と戦う。少なければ則ち能く之を逃る。若かざれば則ち能く之を避く。故に、小敵の堅なるは大敵の擒なり。」(謀攻篇)
軍隊を運用するときの原理原則として、自軍が敵の10倍の戦力であれば、敵を包囲すべきである。5倍の戦力であれば、敵軍を攻撃せよ。敵の2倍の戦力であれば、相手を分断すべきである。自軍と敵軍の兵力が互角であれば必死に戦うが、自軍の兵力のほうが少なければ、退却する。敵の兵力にまったく及ばないようであれば、敵との衝突を回避しなければならないと、敵と味方の兵力差によって戦い方を変えるように言っているわけです。自軍の兵力が少ない場合には逃げたり、避けたりすることも考えないといけないのです。
付け加えて、小兵力しかないのに、無理をして大兵力に戦闘をしかけるようなことをすれば、まんまと敵の餌食となるだけだと言っています。
自分の力量やリソースが充分にあるときには包囲戦のような余裕のある戦い方ができるので良いのですが、問題はこちらの力が劣っているか、とても敵わないほどの差がある場合です。そんな状況なのに、感情的になって自分と相手との力の差を見極められなくなり、面子を守るために意地になって敵に突っ込んでいくようなことをしてしまうと、飛んで火にいる夏の虫となってしまうよと警告しているわけです。
敵のリソースをうまく活用する
ライバルと比べて自分の力量が劣っているとき、またライバルの方が有利な環境に置かれ、自分のほうが不利な状況に陥っているようなときにどうするべきかを考えてみましょう。
孫子は、「智将は務めて敵に食む。」(作戦篇)と言っています。
優れた将軍は敵国に遠征するときに、敵地での食糧調達を考えるものであると言うのです。敵国に遠征するためには食糧や武器などの物資も運ばなければならず、労力もコストも余計にかかることになります。そういう場合には、敵のリソースを使うことを考えろと言うのです。
こんなことも言っています。「敵を殺す者は怒なり。敵の貨を取る者は利なり。」(作戦篇)
敵を殺してしまうのは、思慮を失い憤怒にかられたものであり、敵の物資を奪い取って利用するのはその利を冷静に判断するものだと。憎い敵だからと殺してしまったり、食糧や武器を焼き払ってしまうようなことをするともったいないじゃないかというわけです。
具体的な例として、戦車戦で敵の戦車を奪い取った兵士には賞を与え、奪った戦車には味方の旗印をつけて自軍の戦車隊に加えてしまえとか、捕らえた捕虜は痛めつけるのではなく丁重に扱って自軍に寝返らせて取り込めとか言っています。そうすると、戦うたびに自軍の戦力が増強されることになると言うのです。
こうした孫子の教えを踏まえると、冒頭の他部署の人と口論になってしまったような場合にも、感情的なしこりを残していがみ合うよりも、他部署のリソースも有効に活用するべく協力関係を築いたほうが良いということになるでしょう。
同じ会社の同僚であっても、部署や役割が違えば、利害衝突が生まれます。そこでつい感情的になって口論にもなるというのは、ある意味で自分の仕事に本気で取り組んでいる証拠とも言えます。「どうせあいつらに言っても仕方ない」などと面従腹背の事なかれ主義の人よりも信用できる人かもしれません。自分の部署の仕事を円滑に進めるために他部署の協力が必要なケースも少なくないでしょうから、そんな熱心で信用できる人をうまく取り込んで協力関係を築けたら、今後の仕事が進めやすくなるかもしれません。
手強いライバルも同様ですね。手強いほどのライバルだからこそ仕事もできるし、協力してもらえれば助かることも多いでしょう。「あいつは敵だから」「あいつとはライバルだから」と距離を置くのではなく、「智将は務めて敵に食む」作戦で敵のリソースをうまく使うことを考えてみることも大切です。
弱い敵を侮ってはならない
強い敵、手強いライバルは無視できませんし、競争したり対立したりするようなことがあれば、慎重に事を進めようとするでしょう。力のある敵だからこそ協力が得られれば頼りになる存在にもなりえます。では、弱い敵、大したことないライバルに対してはどうでしょう。つい軽んじたり、舐めてかかったりして、実力では自分のほうが勝っていても足をすくわれるようなことがありますから注意しましょう。
孫子はこう教えてくれています。
「兵は多きを益ありとするに非ざるなり。惟だ武進すること無く、力を併せて敵を料らば、以て人を取るに足らんのみ。夫れ惟だ慮り無くして敵を易る者は、必ず人に擒にせらる。」(行軍篇)
戦争においては、兵員が多ければ良いというものではない。兵力を過信して猛進するようなことをせず、戦力を集中させ、敵情を読んで戦えば、敵を屈服させるに充分である。そもそも彼我の戦力分析もせずよく考えもしないで敵を侮り軽はずみに動くようでは、敵の捕虜にされるのがオチであると。
実力があり、リソースがあれば必ず勝てるなら、潰れる大企業はないわけです。新興のベンチャーや中小企業が大企業をも駆逐して急成長することがあるように、自分に力がある、リソースがあるからと過信したりせず、弱い敵に対して油断しないことも大切なことです。
戦争でも、ビジネスでも、力の差は相対的なものであり、置かれた局面、戦況、地形、天候など外部要因からも影響を受けるものです。いくら自分に自信があっても「あんな奴に負けるわけがない」といった過信には気を付けていきましょう。
強い敵やライバルからはリソースを借りたり協力を得たりして、弱い敵には決して油断せず慎重に対処する。これができれば負ける気がしませんね。


