完璧を目指さずできる範囲でやる
中国全土を飛び回っていたため、月に2、3回の出張時は、飛行機の中と宿泊先のホテルが格好の学習の場だった。出張先では立場上、スピーチが多いため、原稿を作っては、社内の中国人スタッフに聞いてもらい、うまく伝わらない部分の発音を何度も練習した。
宿泊先のホテルではスピーチの予行演習の繰り返し。寝る前や当日朝に大きな声で練習して、隣室の客から「うるさい」と怒鳴り込まれたこともある。そんな渡邉さんも、赴任当初はあまり中国語を口にしようと思わなかった。
「40代ともなると、それなりの会社生活を送っているからプライドもある。部下の前で恥もかきたくないでしょう。でも中国人は優しいから気に病む必要がありません。逆に間違いがあれば直してくれますよ。失敗を恐れず、できるだけ中国語を使うべきです。ゆっくりと、はっきりと話せばいい」
ずいぶん中国語が上達した今でも、あえて通訳を使うことがある。
「普段の生活はほぼ中国語ですが、ビジネスの重要な場面では、誤解を避けるためにも、通訳を使います。特に会社を代表してメディアのインタビューに応じる場合は100%通訳です」
何でもすべて完璧にやろうと思わず、できる範囲でやればいいのだ。無理して誤解が生じて取引や契約に支障が出れば、何のために語学をやっているのかわからなくなる。TOEICなどの点数がすべてになってしまうような人もいるが、業務で困らない程度でいいといった割り切りも必要だ。
前半に登場したダイキンの山口さんもやみくもに高い目標や無理なゴールを設定せず、自分の業務を円滑に回すことができればいいというスタンスで無理せず学習している。40代ともなれば、記憶力や体力では若い世代にはなかなか勝てない。語学だけに膨大な時間を振り向けるわけにもいかない。
しかし、山口さんも渡邉さんも最初の一定期間は必死に食らいついて勉強している。この最初の峠を乗り越えてからは、少し力を抜いて、自分のペースをつくって学習を継続している。そんなふうに気負わず語学に向き合う姿勢が長続きのコツなのだろう。