香港の混乱が収まらない。中国政府が事態収拾のため「第二の天安門事件」に踏み切る恐れはないのか。北京在住のジャーナリスト・陳言氏は、「中国政府にとって香港の地位と役割は重要で、今後も軍事力を行使する恐れは小さい」と指摘する――。
写真=AFP/時事通信フォト
デモが先鋭化しても、中国政府に武力鎮圧の動きは見えない。

香港は大陸が国際貿易を行う“抜け道”

香港の混乱が収まらない。現地ではデモ隊による過激な破壊行動が続いており、香港政府の背後に控える中国政府が、事態収拾のために軍事力を行使することも危惧されていた。だが、国慶節(建国記念日)の10月1日を過ぎてもその気配はない。

それはなぜか。この理由を探るには、中国政府にとっての香港の地位と役割を再点検する必要がある。

目下、中国大陸の対外貿易相手国・地域の中で第1位は米国であり、中米貿易額は中国輸出入総額の19%を占めている。それでは第2位はどこかといえば、日本でも、EUでもない中国「香港」である。

大陸と香港の貿易額は中国輸出入総額の14%を占めている。これは対日、対韓、対独の3カ国の貿易の合計に匹敵する。輸出について、一つ例を挙げよう。2018年、大陸の331億ドル相当の通信設備、258億ドル相当の集積回路設備、167億ドル相当のコンピューター設備が香港に輸出された。

香港は人口700万人余、面積1000平方キロに過ぎず、大陸の14%もの輸出入を消化し切れるはずがない。なぜ大陸は毎年香港からこれほど大量の貨物を輸出入しているのか。簡単に言えば、香港は大陸の対外貿易の中継点だからである。

中国は世界貿易機関(WTO)に加盟しているが、世界的な貿易組織に加盟しているのはわずかにこれだけだ。世界にはもっと多くのさらに自由で、さらに開放された貿易協定があるが、中国大陸(中華人民共和国)は未加盟である。WTOにおいても、中国大陸の関税は依然として比較的に高い。一方、多くの先進国が中国に対して最恵国並みの待遇を付与していない。

しかし、香港の国際的な位置づけは異なる。中国大陸の貨物が香港に輸出されると、個別の産品を除いて、全て無関税であり、通関も迅速に行われる。1986年4月23日、WTOの前身であるGATT(関税貿易一般協定)は、香港を独立した関税区であると確認した。独立関税区は、主権国家ではないが、自らの関税の基準を決定できる。香港の場合、関税はほとんどゼロだ。また、独立関税区として、ASEANやオーストラリアなどと国際自由貿易協定を結んでおり、香港の輸出貨物はその多くの目的地で優遇関税を享受できた。