絶対にぶれない、目標を曲げない

全体最適を目指し、最後は役員が登場する!
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全体最適を目指し、最後は役員が登場する!

日欧米の自動車産業の研究で知られる東京大学の藤本隆宏教授によれば、トヨタの強みは各部門が細部にこだわりつつも全体感を失うことなく、一致協力する「擦り合わせ」にあるという。これを大塚流にいえば、「和の精神による全体最適」ということになるのだろう。このとき、CEが求心力の要になる。

ただ、トヨタのCEもホンダのLPLと同様、プロジェクトにおける人事権は持たない。三代目の開発にかかわった人員総勢2200人の人事権は各自が属する部門長が持った。それでもなぜ、大塚は求心力を維持することができたのか。

「私が持つのは最終の図面の決裁権でサインを拒否したら先へは進めません。でも、それ以上に大きいのは、車の開発に関してはCEのいうことを聞こうという慣習がトヨタに根づき、会社全体でCEの存在を尊重してくれることです。

その分、あのCEのいうことなら何とかしようと思ってもらえるか、信用商売です。だから、一度掲げたコンセプトは絶対ぶれてはならないし、目標も曲げてはいけない。内心、あきらめようかと何度も思いました。でも曲げなかったのは、半年かけて現場でコンセプトを検証し、自ら課した目標だったからです。あの半年は非常に大きな意味を持ちました」

ところで、トヨタ流の問題解決のもう一つの特徴を示すエピソードがある。08年1月、開発から品質保証へとフェーズを移す時期になっても、38キロの目標に到達できずにいたとき、パワートレイン担当の役員が定例会議で大塚を叱ったのだ。「設計の連中は一生懸命やっとるのに、おまえらがちゃんと音頭取りしないからだ」。直系でない上司の斜め上からの叱責は系統を超えて強い効果を発揮するところがある。それは役員自身、自分の役回りを知悉している証しだった。トヨタで注目すべきは役員の存在だ。