「入社からまだ間もないときに、BCGの日本代表を務めている御立尚資さんとプロジェクトで一緒になり、突然『それで仮説って何なの』と聞かれことがあった。売り上げダウンに悩んでいたクライアントのプロジェクトだったのだが、本来は、たとえば大きなセグメントでの新しい市場開拓を目指すにはどうするかなど、何に対して答えを出せばいいのかという設定がないと仮説は出せない。それがない状況で仮説を求められ、とても面食らったことをよく覚えている」
こう語るのは、BCG出身で10年11月に有線放送最大手のUSEN社長に就任した中村史朗氏である。この中村氏のコメントからもわかるようにBCGのコンサルティングの現場では、課題の設定と合わせて、常に仮説を持つことを強く求められる。その理由について、やはりBCG出身で前出の田中氏と一緒に共同創設者としてロコンドの経営の先頭に立つ秋里英寿氏は次のように語る。
「仮説を持っていないと、論点の範囲が限りなく広がってしまう。売り上げが伸びないといっても、その原因は多岐にわたり、商品力のアップ、プライシングの見直し、サービス面での競合との差別化など、いくつもの論点が出てくる。それらを1つひとつ細分化して考えていったら時間がいくらあっても足りないからだ」
ここでいう「論点」はマッキンゼーの「何の質問に答えるか」という課題、つまりイシューに当たる。問題解決の思考法の手順の川下に位置する仮説を最初に立ててしまい、そこから上流に遡ってイシューを絞り込み、サブイシューに切り分けながら、再度仮説を考えていくわけだ。こうしたまず仮説ありきの思考方法を「仮説思考」と呼ぶ。
多くのビジネスマンは「情報は多ければ多いほどいい」と考えがちだ。しかし、情報収集しているうちに、それ自体が目的化して、情報収集に明け暮れてしまうことがある。それではいつまでたっても、本来の目的である解決策の提示までゆき着かない。そこで思い切って仮説から逆算していくことで、余分な情報収集に基づいた現状分析を排除し、少しでも早く論点を切り出していくところに、この仮説思考の大きな特徴がある。