原動機の本拠地である高砂製作所で、20メートル超のガスタービンの加工現場を見学した。ガスタービンの組み立ては、100分の1ミリ単位の誤差も許されない“精緻なアナログ技術”の集積である。
この工場内で国内の電力会社だけでなく、海外、特にアジア諸国から送られてきた部品の修理も行われている。ガスタービンに貼られたラベルの国名を見れば、三菱重工業のアジア市場における存在の強さが窺える。GE、シーメンスのガスタービン事業が、メンテナンスで事業収益の大半を稼ぐように、三菱重工業も今後は、“メンテナンス”事業を収益の柱にする戦略を掲げている。
ガスタービンの例にみられるように、宮永は、三菱重工業をかつての低収益事業の集合体から、GE、シーメンスと比肩できるような“収益力”の高い事業モデルを含んだ形に変化させようとしている。それぞれの事業が自立して、一定以上の売り上げと利益を上げ続けなければ、会社は存続できないと考える。宮永は三菱重工業の未来をこのようにみている。
「各ドメインで、1兆円程度の売り上げがなければ、グローバルな競争上で、規模のメリットを追求できない」
宮永は、各分野で、1兆円規模に事業を成長させることができれば、たとえトップを取れなくても、上位3社以内に入れるとみている。日立製作所と1兆円規模となる火力事業の統合を成立させたのもこの理由からだ。統合効果で、14年度、売上高4兆円も視野に入る。しかしながら、17年度以降の売上高5兆円となると話は別で、「MRJ」「787」を確実に成功させたうえで、インフラ事業、M&Aなどの大型投資などが不可欠だ。宮永に求められる課題は、30年以上続く“3兆円企業”からの脱却である。
「常に客に対して可能性を提示し、客のニーズをこちら側からつくり出すような営業が展開できれば、必ず勝算はある」
宮永が、三菱日立で学んだように、よい部分を引き出し、可能性を伸ばすことで、必ず受注は増えていく。
大宮が5年前から格闘し続けた、三菱重工業の新たな姿、新たな挑戦への道筋。その道を、迷うことなく歩んでいくのが、宮永の役割だ。宮永に、三菱のスリーダイヤの未来が託されている。
(文中敬称略)