【5】仮説の立て方
―仮説は潜在的ニーズの「見える化」である

「“売れた”からでも“売れている”からでもなく、“売れると思う”から発注する。意思のある発注は仮説を立てることによって生まれる」

と鈴木氏はいう。「仮説」を立てて発注し、結果はPOSで「検証」する。鈴木流経営学の根幹をなすのが、この「仮説と検証」のサイクルだ。このサイクルを常に回しながら、一品一品について売れ筋をつかみ、死に筋を排除するのが「単品管理」だ。

しかし、「こうすれば売れるのでは」と思って仮説を立てるとき、独りよがりになる可能性もある。そこで、「もう一人の自分」から見て、独善に陥っていないか顧みる。仮説を考えながら、同時にメタ認知と呼ばれる認識法で客観性を持たせるのが鈴木流仮説構築法の特色だ。

「仮説を立てて発注するとは、別のいい方をすると、目に見えない潜在的ニーズを売り上げの数字に変えて見える化することです。その商品がなければ生じたはずの機会ロスも売り上げの数字として見える化される。仮説と検証を習慣づければ、目に見えないものが見える化され、同じニーズでも顕在的ニーズより潜在的ニーズを、同じロスでも廃棄ロスより機会ロスを重視して、拡大均衡へ持っていけるようになるのです」(鈴木氏)

セブン-イレブンのアルバイトも、仮説と検証を徹底して習慣づけられる。3カ月もすると経営論を語り始めるゆえんはここにある。

鈴木流経営学が学生アルバイトでも短期に戦力化できるのは、顧客にとって正しいことを実践するからだ。不況期にはいくら一生懸命頑張っても、顧客から見て正しくなければ、成果には結びつかない。自分はどこか空回りしていないか、「もう一人の自分」から、もう一度とらえ直してみてはどうだろうか。

『なぜ、セブンでバイトをすると3カ月で経営学を語れるのか?』(プレジデント社)

発売たちまち8万部を突破。各書店でもベストセラー入りしている同書は、不況になるほど注目を集める鈴木敏文氏の経営手法を発想法、マーケティングなど5つの視点から分析。過去の成功体験の呪縛が解けないベテランほど不況アリ地獄に落ちる、と鈴木氏は喝破する。

(若杉憲司=撮影)