「最も大切なこと」を発見するツールへ

この「フランクリン・システム」、つまり時間管理についての考え方は、7年後の「フランクリン・プランナー」の解説書であるフランクリン・コヴィー・ジャパン編著『人生は手帳で変わる』においてより精緻化・体系化されたかたちで展開されているので、以下ではそちらを参照することにします(フランクリン・エクセレンス インクは親会社の合併に伴い、1998年にフランクリン・コヴィー・ジャパンとなっています)。

『人生は手帳で変わる』は、「手帳を単なるスケジュール帳としてではなく、人生のガイドとして活用」することを主張して始まります(3p)。従来の手帳はスケジュール管理機能を高めてはきたものの、効率的なスケジュール管理はさらなるスケジュールの追加を呼び込み、結果としてストレスを高めることにつながっているとされます。それによって、「本当にやりたいこと」が明らかにされないまま、仕事だけが増えていくという問題が生じているというのです(52p)。

それに対して「フランクリン・プランナー」は、「自分自身にとって『最も大切なこと』を発見することに主眼をおく」といいます。そして「『最も大切なこと』と自分自身の計画と行動を、一線化した上で、調和できるようにする」というのです(58p)。次に、「スケジュール化された課題に自分の優先順位をつける」のではなく、「自分にとっての優先的な課題や事柄をスケジュールに入れる」という発想の転換が促されます(60p)。こうすることで、人生の「最も大切なこと」と仕事の予定がバランスよく配分され、充実感と達成感を得ることができるようになるというのです(62p)。

このように「最も大切なこと」の発見が重要視されるため、『人生は手帳で変わる』では、その発見への「3つの切り口」が次のように用意されています。「その1つは、理想的な生き方に近づくための具体的な行動指針である『Value(価値観)』。2つ目は『Role(役割)』。すなわち、理想とする生き方を実現するために果たすべき役割である。そして最後が、あなた自身の理想とする生き方や生きる目的を表す『Mission(ミッション)』である」(142p)。「これからの人生で、あなたがやりたいと思うことは?」「今、あなたに充分な時間があれば、誰と何をしたい?」等の自問自答を行いながら(78-79p)、「最も大切なこと」が発見できたならば、後は『フランクリン・システム』と流れは同様です。

具体的には、『人生は手帳で変わる』での「手帳術」の流れはこうです。「フランクリン・プランナー」の「目標」ページに、「最も大切なこと」を書き込み、それに沿った長期目標を設定し、その達成のために必要な中間ステップを、優先度と期限とともに書いていく。さらにそれは月ごとの主要課題、月間目標へとダウンサイズされ、さらにデイリーページの「今日の優先事項」欄に落とし込まれる。さらに優先事項の中でもとくに重要なA、次いで重要なB、できればいいという程度のCと優先順位をランク付けして振り分ける。これらの優先事項は「時間自由」の事項なので、あらかじめ入っている「時間固定」のスケジュールの隙間でそれらを処理していく(80、98-99、104-105、184-197p)。「デイ・プランナー」と原理は同じですね。

以上みてきたように、「デイ・プランナー」と「フランクリン・プランナー」においては、人生や夢にどう向き合うかということが、手帳のコンテンツと一体化したものとして示されています。いわば夢の「手帳術」化、夢の作業化がここで起こっているのです。2000年代の日本人の手による「手帳術」でもこのような変化は同様にみられます。以下、それを追っていきましょう。