トランプ氏の政策に振り回される恐れも

中国のBYDやCATLなどの海外進出によって、わが国自動車企業が高シェアを維持したアジアの市場でも価格競争が起き始めた。わが国の多くの自動車関連企業が進出し、“アジアのデトロイト”と呼ばれたタイでも中国企業が値下げ攻勢をかけている。

また、米国の次期政権の政策も懸念材料だ。トランプ氏は、関税など対中引き締め策を重視する。米国が対中関税率を追加的に引き上げると、中国の輸出には下押し圧力がかかり、中国の景況感の悪化は避けられないだろう。米国が、わが国の自動車に対する関税を引き上げることも想定される。

今すぐではないだろうが、いずれかの段階で、米国の個人消費の鈍化懸念もある。米国では、すでに低所得者層などの消費が減少しつつある。それらが現実のものになると、わが国の自動車関連企業の収益が減少し、景気持ち直しペースは鈍化するだろう。

全固体電池、FCV、ソフトウェアの実用化が急がれる

欧州では、ドイツのフォルクスワーゲンなどが中国での収益減少に直面している。ドイツでは、自動車メーカーにとどまらず、石油化学、鉄鋼、自動車部品など幅広い産業でリストラが発表された。米GM、フォードはEVシフト戦略を修正し、エンジン車やPHV開発の遅れを取り戻そうとしている。米欧自動車勢の業況はわが国以上に厳しいとみられる。

そうした環境下でも、わが国の自動車関連企業が収益獲得を目指す方策はどこかにあるはずだ。長い目で見ると、世界全体で自動車の電動化は進むだろう。また、自動車自体のシステムにも変革が起きるだろう。車のハードと同時に、車を快適に利用するソフトウェアが自動車の社会的役割を決めることになるだろう。

新しい需要を創出するため、わが国のメーカーは新しい製造やソフトウェア技術の実用化が必要になるはずだ。電動化の切り札といわれる全固体電池、究極のエコカーと呼ばれる水素を動力源にしたハード面、それに付随するソフトウェアを独自の技術力で開発することが重要だ。

米・中、インドなどで業務展開を整備し、EVや最新の電動車まで全方位型の事業戦略を推進する。わが国の自動車関連企業が、そうした取り組みを着実に進めることが求められる。自動車産業がわが国経済の屋台骨を支えるため、これからも自動車メーカーが活気をもって前に進んでほしいものだ。

(初公開日:2024年12月9日)

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