「勉強しなさい」がポジティブに働く条件とは?

このような問いかけを通じても、子どもがどうしても動かない場合は、「勉強しなさい」という親の明確な指示が必要になることもあります。

アメリカの発達心理学者ダイアナ・バウムリンド(Diana Baumrind)が行った調査では、明確なルールや一貫性ある指導を与えつつ、子どもの意見や感情を尊重する態度で接する『権威的な子育て(authoritative parenting)』を行う親のもとで育つ子どもは、自己肯定感が高く、社交的で、学習意欲や問題解決能力が優れていることがわかりました。その後、エレノア・マッコビー(Eleanor Maccoby)やジョン・マーティン(John Martin)をはじめとする研究者たちによる、多様な文化的背景を持つ対象集団に対する長期縦断研究でも、やはり権威的スタイルが子どもの学業達成、社会的成熟、メンタルヘルス面で有益であると結論づけています。

ただし、その際には普段子どもに対して温かみのあるコミュニケーションをとり、愛情をしっかり感じさせている必要がありますのでお気をつけください。以下が「勉強しなさい」をポジティブに働かせるための注意点です。

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1.一貫性が重要

ルールを作ったら、その場しのぎで変えたり不公平に扱ったりしないことが大切です。一貫性がないと、子どもは混乱し、親との信頼関係が揺らぐ可能性があります。また、「ルールを守らなくても大丈夫」と認識させることにもつながります。

両親や複数の養育者がいる場合、基本的なスタンスや規則について事前に話し合い、できるだけ足並みを揃えることが望まれます。親同士で方針が異なると、子どもはどちらに従えばよいか戸惑い、場合によっては片方の親を味方につけてルール回避を試みるなどの行動が出やすくなります。

2.子どもの個性を尊重すること

全ての子どもに同じ対応が合うわけではありません。性格や発達段階に応じて、褒め方や声のかけ方、関わり方を柔軟に工夫する必要があります。

幼児と小学生、中学生、高校生では、それぞれ理解力や自己コントロール力が異なります。幼児には短い言葉と視覚的なサポート、小学生には理解できるような論理的な説明、中高生にはもう少し深い対話や議論が効果的です。

また気質や性格特性への考慮も重要です。社交的な子どもには、積極的な場や仲間との交流機会を与えることで才能を伸ばせますが、内向的な子には無理に他者との交流を強要せず、一人で楽しめる学びや自己表現の機会を確保することがサポートになります。学習面での遅れ、特定の才能や障害など、その子が持つ特定のニーズをよく観察し、それに合った支援を心がけてください。

3.「厳しさ」と「やさしさ」のバランス

権威的子育ては「優しすぎて何でも許す」わけでも、「厳しすぎて押さえつける」わけでもありません。両極端に偏らず、適度な指導と温かい配慮を両立させる姿勢が大切です。

まずは「厳しさ」の質を見直すことから始めてください。ここで言う「厳しさ」は、子どもの人格を否定したり無理やり抑えつけたりすることではなく、子どもが守るべき社会的ルールや責任を明確にし、それに違反したときは理由を伝えた上で適切な対応(叱る、ペナルティを与える)を行うことです。過剰に怒鳴る、身体的罰を与えるといった過激な方法は、長期的に子どもの心に悪影響を及ぼします。

この研究で、厳しさに偏りすぎた接し方をする親に育てられた子どもは自発性や自己主張が弱くなることがわかりました。またコミュニケーション能力や学力の低下、さらに自己肯定感が下がり将来うつなどのリスクが上がることもわかっていますのでくれぐれもご注意ください。

「優しさ」と「寛容さ」の限度にも注意が必要です。優しさや子どもを思いやる気持ちは重要ですが、全てを子どもに合わせてしまうと、子どもは自律性や自制心を獲得する機会を失います。望ましくない行動に対しては、なぜそれが問題なのかを説明し、子どもが自ら責任を理解できるよう促しましょう。

4.親自身のセルフケアの重要性

親が疲れ果ててイライラしていると、一貫性の確保や柔軟な対応がどうしても難しくなります。親自身が十分な休息を取ることが重要です。長年ネガティブな感情に支配されている人や、子どもへの愛情の与え方がわからないなどが理由で、優しさと厳しさのバランスをとることが難しい人はコアビリーフセラピストなどの専門家やコミュニティにサポートを求めることも、良質な「権威的子育て」の実践に欠かせません。