ADはずっと喋り続けていた

皆さんもそうだと思うが、「笑っていいとも!」の客席は反応が過剰であるとつねづね思っていた。おもしろくもないことに大笑いするという点に関しては、もはやどうとも思わないが、「うんうん」とか「えーーっ⁉」とか、喜怒哀楽のすべてを文字通り声に出して表現するという傾向は、若い年代の日常生活にはないはずのものなのに、と。

あの客席に座るとそうなってしまうという巧妙なメカニズムがどこかに潜んでいるのではないかとさえ予測していたのであるが、こんなに直接的指導がなされているとは知らなんだ。

時計は11時55分を回っている。ステージ上では例のADが、少しの間もあけずに喋りつづけている。このADが受けもつ14分30秒というのは、全ての注意事項(指導事項も含む)を出来る限りの早口で喋り終えるまでに所要する最低時間らしい。

客席では化粧を直している女が本当にいた。

テレビで学習してきている

11時59分をすぎたところで「ハイ、では本番まで1分切りましたんでね。ワールドボーイズでーす」の声を最後にADは客席最前列中央の番組中定位置に下り、上手のセット入口からワールドボーイズ(アシスタントの2人組)が走って出てきた。

さっきのADの「1分切りました」という一言で、客席にはざわめきが広がり明らかにテンションは急に上がった。もう何が起きても、驚くぐらい過剰な反応を示す態勢に入ってることが手にとるように分かる。

ワールドボーイズも悲鳴のような歓声で迎えられ、何か聞きとれないことを客席に向って叫び、残り数秒というところでバック転を切った。着地して体勢をととのえた瞬間「カチカチカチ」という歌い出しのためのカウント音が響き、正午の時報とともに「おひるやーすみはウキウキウォッチング」と踊り出す。そしてタモリが姿を現すのである。

正直いってここまでの流れに、私は感服してしまった。毎日テレビを見ていると、このタモリが登場する瞬間の会場のボルテージというのは不思議なのである。中年の小男に「ギャーッ‼」とまで叫んで熱狂する瞬間とは何なのか。

しかし、客入れから番組開始までの15分という短さ、一切間というものを設けずにまさに本番に突入するように時間配分された段取りはシステマチックでさえある。

それに重ねて、「思ったことは口に出せ」という指導は心のタガを外す免罪符となり、番組中に訪れる数々のシチュエーションに対して、客はすでに昨日までのテレビ視聴で対処のノウハウを家庭学習してきているのだ。「ギャーッ‼」と言わせられるべくして、言わせられているのである。