「俯瞰視点」を持つと気づきやすい

気づきの習慣と関連して、気づきやすい視点について触れておきましょう。

少し前に、サッカー日本代表の試合を中継で見ていて、もどかしい思いをしたことがあります。画面には、ある選手が疲れすぎたのか、足がもつれている様子が映っていました。

相手チームはその選手を狙って攻撃を仕かけてくるのですが、まったく対応できません。すぐに選手を交代しなければ、失点するのは時間の問題です。

でも、なぜか監督は選手を代えません。結局、チームはズルズルと失点を重ね、そのまま敗北してしまいました。

私のような一般のサッカーファンが問題に気づいたのですから、中継を見ていた人のほぼ全員が同じように気づいていたと思います。では、なぜ選手交代が行われなかったのでしょうか。

もちろん、我々にはわからないチーム事情があったのかもしれません。監督にもっと深い意図があった可能性も考えられます。

でも、最大の理由は、私たちが気づきの起きやすい環境下で試合を見ていたことにあると思います。テレビ中継の視聴者は、試合を俯瞰視点で見ています。プレーの振り返りをVTRで確認することもできます。そこで修正ポイントに気づくことが多いのですが、実際のピッチに立つと視点が限定されるので、気づかないことが多いのです。

井上尚弥選手の試合で「特等席」を入手したが…

私には、ボクシング世界3階級制覇王者である井上尚弥選手の試合を生で観戦したという、ちょっとした自慢があります。何しろ井上選手は、日本ボクシング史上最高傑作ともいわれる逸材です。この目にファイトを焼きつけたいと考え、思い切って大枚をはたき、リングサイドのチケットを購入したのです。

当日、指定された席に着いてすぐに気づきました。私の席は位置が低すぎて、リングの反対方向が見えません。むしろ、もう少し安価な席のほうが、リングから多少離れる代わりに上から見下ろす形になり、全体が見やすいのです。

齋藤孝『「気づき」の快感』(幻冬舎新書)

「ちょっと、向こう側が見づらいな……」

そう思いつつ観戦していた私に悲劇が訪れます。井上選手がKOパンチを繰り出したのですが、それは私がいるリングサイドとは反対側でした。なんと、決定的瞬間を見ることができなかったのです。

KO直後、会場全体が大きく揺れ、地鳴りのような歓声が起こりました。その盛り上がりには感動しましたし、井上選手の勝利には大満足でした。けれども、なんとも消化不良のまま会場を後にすることになりました。

帰宅後、配信の映像を見て、「なんだ、こっちのほうが全然見やすいじゃないか」と思ったのでした。

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