現代の研究手法をもってしても解読できない

真贋論争には、往々にして物理的な証拠と化学的な分析が有力な判断材料を提供してくれる。第2章で詳述するように、2011年には写本が書かれている羊皮紙の放射性炭素年代測定が行われ、15世紀前半の仔牛から作られたものだという結果が得られた。

安形麻理、安形輝『ヴォイニッチ写本』(星海社新書)

放射性炭素年代測定法は考古学や地質学の分野で開発されてきた手法だが、極微量の試料による年代測定が可能になったこと、測定精度が高くなったことから、写本や古文書に対しても適用されるようになってきた。

また、文字や挿絵に使われているインクの成分分析も行われた。その結果は、本文や挿絵のインク成分は中世のものだと考えて矛盾がないことを示すものだった。つまり、ヴォイニッチ写本は、15世紀の仔牛皮に、中世のインクによる文字と挿絵を持つことになる。

羊皮紙やインクの成分分析によると、15世紀か16世紀に制作された写本だということは確実だといってよい。それでは、現代の研究手法をもってしても解読できないようなものを中世に作り出すことができたのだろうか。『ヴォイニッチ写本』第2章で見ていきたい。

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