超常現象や怪奇現象などを扱う雑誌・月刊『ムー』。「オカルト雑誌」と呼ばれることもあるが、三上丈晴編集長はそれを否定しない。三上編集長は「自己啓発をうたうビジネス書は、どれもがムー的で、オカルト本に近い。実際に成功するかどうかはわからないが、人生に行き詰まったら、読む価値はある」という――。(第2回)

※本稿は、三上丈晴『オカルト編集王 月刊「ムー」編集長のあやしい仕事術』(学研プラス)の一部を再編集したものです。

三上丈晴編集長
写真提供=学研プラス

自己啓発本の基本にあること

サラリーマンはもちろんだが、起業を目指す方は書店の自己啓発コーナーに行ったことがあるのではないだろうか。仕事術と称した本を中心に、いかにすばらしい人生を送るかといったテーマの書籍が数多く置かれている。本書も、ひょっとしたら、そこに並んでいるかもしれない。

基本的に自己肯定やポジティブシンキング、さらには引き寄せの法則などとうたった書籍もある。成功哲学という位置づけだが、なかにはスピリチュアル本も少なくない。もともとナポレオン・ヒルやデール・カーネギー、そしてなんといってもジョセフ・マーフィーらの人生訓が元祖といっても過言ではない。

どの本も、理論的にはアドラー心理学が基本にあり、大切なのは目的であって過去ではない、と説くことが多い。成功をリアルにイメージして、マイナス要素を払拭ふっしょくする。瞑想めいそうして宇宙と一体化し、神が自分を愛していることを実感せよ。日常的に理想的な状態を観想することによって、だれもが成功者となる。力んで努力しても、必ずしもむくわれない。むしろリラックスして成功をイメージしながら眠るほうがいいという。

地球での瞑想
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「マーフィーの成功哲学」の根底にあるオカルト

典型的なのは「マーフィーの成功哲学」である。ビジネスパーソンなら、一度は目にしたことがあるのではないだろうか。マーフィーといっても、テーブルから落ちたトーストがバターを塗った面が下になる確率は敷いている絨毯の価値に比例すると説いたエドワード・マーフィーではない。

日本では「マーフィーの法則」として知られるが、これは、ある意味、マーフィーの成功哲学のパロディだ。とはいえ、両者の根底にあるのは人智を超えた宇宙の法則であり、かなりスピリチュアルだ。

提唱者のジョセフ・マーフィーはキリスト教の牧師である。ディヴァイン・サイエンス教会といって、一種の新興宗教の指導者だ。キリスト教と合理主義を心理学をもって統合したニューソートという思想が中心にある。潜在意識に働きかけることで、成功を手にすることができると説き、潜在意識が『聖書』でいう神、もしくは神が創造したものであると位置づける。

あやしいオカルト本と見られることを避けるためか、日本語では本文に出てくるスピリチュアル的な表現をうまく心理学の用語で置き換える傾向がある。初期の翻訳本では、ストレートにサイキックや心霊主義といった訳語があり、実際のところ、こちらのほうが内容的に正しい。何しろ、易の活用を積極的に勧めているぐらいだ。

先述したアドラー心理学をベースにした本などと紹介されることもあるが、潜在意識や集合無意識を肯定している点で、むしろユング心理学に近い。

カール・グスタフ・ユングはオカルトにも造詣が深く、易経を研究していたことはすでに述べた。もっとも、サイキックを強調している点からすれば、心理学は心理学でも、超心理学だといえるかもしれない。超心理学とは超能力を研究する学問である。