人間の心の調子は、ギターぐらいにズレやすい

その答えは、「お互いへの不信感」です。

マスクや消毒液を盗む、感染者を迫害する、自粛に応じない者を攻撃する、そんな悲しい姿に多くの人が人間を信じられなくなってしまいました。

本来ならするもしないも本人の意思で良いはずのワクチン接種についても、意見の対立でせっかくの友人関係や家族関係が壊れてしまうことさえありました。

どうしてそこまでお互いを信じられなくなってしまったのか。それは紛れもなく「ふれあい」の減少が原因です。

私が愛用しているギターという楽器は、チューニングという作業で音を合わせるのですが、自分1人で演奏しているとそのチューニングがズレていることになかなか気づきません。他の楽器の人と合奏すると、こんなにズレていたのかとびっくりすることがあります。

実は人間の心の調子もギターの弦と同じくらいズレやすいのです。1人っきりでいるとどんどん音がズレていくのに自分ではそのことに気づかない。じゃあどうやってチューニングすればいいか?

それが他の人との合奏、すなわち「ふれあい」なのです。

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自分1人だけで考えていると、思考のズレに気づかない

風邪で1週間学校を休んでひさしぶりに登校した時、クラスメイトとのおしゃべりにテンポのズレを感じたことはありませんか? 旅行を終えて久しぶりに出勤したら、どうも同僚と仕事のテンションが合わなかったことはありませんか?

それくらい、心はふれあいがないと調子が狂ってしまうのです。

ギターにはチューニングマシーンという1人でも音を合わせられる便利な道具がありますが、心にはそれがない。だからお互いの音を鳴らして調整する以外に心のチューニングをする方法はないのです。

普段であれば、誤解や勘違いが生じても、相手と話すことでそれを修正できました。自分だけがノリノリになっていても、仲間の表情を見てみんなはそうでもないことを感じ取り、自分をいましめることができました。

腹を割って話すことで、自分の見解が間違っていたことが分かりました。しかしコロナ禍の孤独な生活ではそれができませんでした。滅多に人に会えず、話せず、会っても会話は最小限で、しかもお互いマスクで表情が見えないから気持ちのやりとりにまで至らない。むしろ相手は感染者なんじゃないかという疑念のほうが先に立ってしまう。

自分1人だけで考えていると、思考がズレていても気づきません。

感情が強まっていても分かりません。