ビジネスに「主観」を持ち出していいのか
でも、ビジネスで「感情をベースに考えていく」なんて、心もとないと思う方もいるかもしれません。普段、数字やデータを客観的な裏付けとして判断をしている場面は多いでしょうし、感情は「自分がそう感じた」というような、極めて主観的なものです。そんな個人的なものをもとにして、多くの人を動かせるのでしょうか?
他人の感情を正確に測ろうとしても、想像することはできるかもしれませんが、寸分の狂いなく正確に理解することはできません。また、マーケティングデータのように数値化しても、客観的に理解することは、そう簡単ではありません。
しかし、あきらめてはいけません。
その難題の唯一の解決方法は、「自分の感情をできるだけ正確に把握する」ことです。
ヒットは「究極の個」を突き詰めた先にある
著名なシンガーソングライターである宇多田ヒカルさんは、自身の作詞作曲について、次のように語っています。
それで、人間のことやまわりの人たち、遠くにいる関係のない人たちのことも、
より深くわかるような気がする。
(「EIGHT-JAM」テレビ朝日 2024年4月28日放送)
自分がある出来事に対して、どう感じるかという自分自身の「感情」を、言葉や行動など何かしらの方法で表現し、それに共感してくれるかどうかを確認することでしか、私たちは他人の「感情」を理解することはできないのです。
例えば、あるミュージシャンが自分の感情を一曲の歌に込めて表現します。その歌が一人、また一人と人々の心に響き、少しずつ多くの人が共感し始めます。最終的に、その共感が集まって一つのヒット曲が生まれることがあります。
これは、一人のミュージシャンの主観的で個人的な感情が、一人ひとりの共感を経て、多くの人に受け入れられ、「共通の感情」へと進化する過程です。
つまり、自分自身の「感情」に気づいて、それを表現することで、他人との共感を生み出し、より広く、より多くの「人を動かす」ことができます。それは、「隠れたホンネ」の中にある「感情」を探り当てていくという、インサイト探索のはじめの一歩のような作業とも言えるのです。
つまり、世の中のほとんどのヒット作品は「隠れたホンネ」を捉えていると言っても過言ではありません。