「空白の五マイル」とは、チベットの秘境・ツアンポー峡谷の未踏査部を指す。角幡唯介さんは、2002年と09年にこの地を訪れ、残された空白地の大部分を明らかにした。その記録である本書は、「21世紀において『冒険』は成り立ち得るのか」という命題に対して、彼が文字通り身をもって答えようとした一冊でもある。

かくはた・ゆうすけ●1976年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、同大探検部OB。2002~03年、チベット、ヤル・ツアンポー川大峡谷の未踏査部を単独で探検し、ほぼ全容を解明。03年朝日新聞社入社、08年退社。10年本作品で第8回開高健ノンフィクション賞を受賞した。
角幡唯介●かくはた・ゆうすけ 1976年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、同大探検部OB。2002~03年、チベット、ヤル・ツアンポー川大峡谷の未踏査部を単独で探検し、ほぼ全容を解明。03年朝日新聞社入社、08年退社。10年本作品で第8回開高健ノンフィクション賞を受賞した。

「かつての冒険家には明確な目標がありました。それが現代になってあらゆる場所が探検し尽くされると、目的達成型の冒険は社会的な意味を失った。ただ、だからこそ冒険という『行為』を、個人のものとして純粋に追求できるようになったともいえるのではないでしょうか」

19世紀末からの約130年の間、数々の探検家がツアンポー峡谷踏破に挑戦してきた。そこには巨大な幻の滝がある、というまことしやかな伝説もまた、彼らを惹きつけた。しかし峡谷の自然は厳しく、一歩間違えれば死が間近に垣間見える場所だ。激流と岩壁、ダニだらけの鬱蒼とした藪が彼らの野心をことごとく打ち砕いた。そうしたツアンポー峡谷の探検史を掘り起こし、背景に塗りこみながら、角幡さんは自らの「行為としての冒険」の意味を考察していく。

(公文健太郎=撮影)