米中対立、東南アジアでは「アメリカ劣勢」
米中が世界の覇権をめぐって鎬を削る中、東南アジア諸国における影響力争いは非常に重要な要素となっている。その際、シンガポールのISEASユソフ・イシャク研究所が実施する年次世論調査(The State of Southeast Asia 2024 Survey Report)で興味深いデータが示された。この調査はASEANに加盟する10カ国の学界、シンクタンク、民間部門、市民社会、非営利組織、メディア、政府、地域・国際機関のメンバーなどに対して行われたものだ。
同調査は東南アジアのエリート層による見通しを把握することができるものだ。「ASEANが米中どちらかを選ばざるを得ない場合、どちらとの連携を選ぶべきか」という問いで、米国はインドネシア、マレーシア、ブルネイなどの国で中国と比べて支持を落としている。言うまでもなく、インドネシアはパキスタンと並ぶ世界最大のムスリム人口(約2億4000万人)を抱える国であり、マレーシアとブルネイはイスラム教を国教として定めている。
直近ではインドネシアはBRICSへの正式な加盟に向けて動いており、東南アジアにおける米国の影響力は確実に後退している。このような情勢変化は、中東における米国の行動が影響を及ぼしていることが背景にあると推測される。米国自体は成長するイスラム圏およびムスリムの人々への対応が極めて下手な国だと言えるかもしれない。
日本が東南アジア、中東で強い影響力を持つ理由
むしろ、東南アジアや中東も含めたイスラム圏において、西側先進国の中で最も有利な立場にある国は日本である。日本は欧米と比べてイスラム圏の国々との対立関係を有していない。日本はキリスト教圏でもなく、国内においてムスリムの人々に対して強制改宗をさせる蛮行におよんでもいない。したがって、一部の排外主義的な動きを除けば、日本はイスラム圏やムスリムの人々との間で欧米ほど深刻な対立関係を持つこともないだろう。イスラムの国々と軍事的に対立することもなく、今後も経済面・文化面を中心とした関係が継続することになる。
そして、日本は多くの文化面でのソフトパワーをイスラム圏に対して有しており、イスラム圏の人々との友好関係の構築・発展させていく土壌を持っている。このような文化面での力というものは軽視されがちであるが、若年人口が多数を占めるイスラム圏では日本が持つ若者文化に対する影響力は極めて重要な要素となる。複雑化する世界環境の中で、共存共栄関係を両国が築き上げるためには、その土台として長い年月をかけた文化交流は欠かすことはできない。