「撤退する勇気」を持てるかどうか

徹底した現場主義は、すばやい経営判断をするうえで役に立っていますが、私自身、多くの人の話を聞いても、すぐには決められないこともあります。その場合は、「1カ月後にみんなで結論を出してこい。私はそれに従うから」などということもあります。決めてくれると思っていたリーダーが決めないと、社員たちは責任逃れができなくなるから、自分の問題として真剣に考えます。最後には現場に即したいい答えをちゃんと出してきたりする。その答えが正しいかどうかわからない場合も、大きな影響がないようなら、思い切って採用する。それが現場への権限委譲やリーダーの育成につながります。

もし答えが間違っていたら一刻も早く認め、正しい方向へ修正する柔軟性と勇気も必要です。新しい事業を始めるよりも、撤退するほうが苦しいし、難しい。しかし、余計なプライドなどは脇に置いて、瞬時に方向転換しなくては、状況は悪化するばかりです。

現地や現場に任せるという「遠心力」が働けば働くほど、本社の理念や方針といった「求心力」が弱まる問題も発生します。だから現地のトップを頻繁に本社に呼んでコミュニケーションを取り、現場の事情を報告したり相談したりするブリッジの役割をさせています。同時に、本社のトップも現地に赴いて、本社の理念や方針が伝わっているか再確認しなければならない。まさに故・松下幸之助さんが言った「任せて任さず」の精神です。