「大阪の利益代表」というポジション

逆に善教による実証的なデータから見えるのは、以下のような実態だ。これだけ長く大阪の与党でありながら、維新を強く支持する層は全体のわずか5~10%。逆に強い不支持層は30%前後存在している。残りの約6割には「ゆるい支持層」と、ほぼ同じ割合の「維新を拒否はしないが支持もしない層」が入り交じっている。この6割のゆるい支持、ゆるい不支持は、時々の状況で入れ替わる。

要するに維新支持層は決して強固ではなく、メディアの影響によって強い支持者が作り出されているわけでもないということだ。

では、なぜ議会や首長選で勝利を収めてきたのか。それは維新が府市の一体性を強調することで「大阪」という都市の利益を代表する政党とみなされてきたからだと、善教は説明する。

自民党をみると、同じ政党でありながら、大阪府議団と大阪市議団では、まったく別の政党のように振る舞うことがある。都構想ですら、府議団と市議団で賛否が分かれ、分裂しかけた。その結果、府と政令市で協調が必要な場面でも、別々の利害に基づく意思決定が繰り返されてきた。

それを「地方自治」の一つの在り方として許容するか、「大阪という都市の利益」を損なう政党の行動と見なすか。自民は前者を選択し、維新は後者に重きを置いた。そして有権者は両者を比較した上で「大阪の利益代表」として、府市一体を主張する維新を支持したということだ。

大阪市中央区にある日本維新の会・大阪維新の会の本部(写真=KishujiRapid/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

「なぜ都構想が必要なのか」を伝えられなかった

そして皮肉なことに、大阪都構想が住民投票で否決された理由も、この維新が実現した「府市一体」にあるとみることができる。

善教によれば、2度目の住民投票は賛成派が圧倒的優位の中で臨んだものだった。維新、公明は賛成、自民府議団の一部も都構想に賛成する状況であり、世論調査でも当初は賛成優位だった。それでも住民投票の結果が反対多数となったのは、政治家や一般市民の反対運動の成果ではないと指摘する。

「私の調査でも、反対運動を見た人は賛成運動を見た人より明らかに多かったです。しかし、反対運動を見た頻度と反対選択に相関はほとんどありません。反対多数の原因は、松井さんが既に維新という政党で府市一体という状況を作っている中で、それでも大阪市を廃止するメリットを伝えることができなかった点に尽きると考えています」(善教)

維新が盛んに主張した「二重行政の解消」にしても、同じ政党が首長と議会多数派を取ったことで既に実現している。であるならば、なぜ都構想が必要なのか。その根拠を示せなかったことで、有権者の説得に失敗した。こうした維新の支持層分析から、コロナ対応についての吉村支持の理由も推測することができる。鍵となるのは、「まだマシ」という有権者の選択であり、広域対策が必須である新型コロナ問題の特性だ。