「投資には最悪のタイミング」が最善
当時のニュースは悲惨な状況を伝えていた。いくつか見出しの例を挙げよう。
・コロナ暴落が続くなかダウは約3000ポイント下落、1987年以来最悪の下げ178幅(CNBC)
・コロナ患者数の急増を受けてカリフォルニア州知事が全州民に「自宅待機令」(CNBC)
・トランプ大統領、コロナパンデミックで中国を非難「彼らのせいで世界がとてつもない代償を払っている」(CNBC)
・コロナウイルス――致死率は低いものの、死者数はSARSとMERSの合計を上回る(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)
・中国、コロナ流行で7億8000万人の移動を制限(CNN)・コロナ不況は中産階級に大きな打撃(バロンズ)
・ロイター世論調査――コロナ禍で世界はすでに不況に突入(ロイター)
僕は30年近くニュースを追ってきたが、メディアが世界の終わりのような見出しをこれほど大量に出したのはアメリカ同時多発テロを除けば初めてだ。ほとんどの読者や視聴者はおそらく投資するには最悪のタイミングだと思っただろう。だがそうではなかったことが今はわかっている。
前ページに挙げたような恐怖を煽る見出しが並んでから1年間で、S&P500は70%上昇した。誰も予想しなかったほどの急騰だ。
投資資産が値下がりしても保有しつづける
「平均すると、市場の回復は前向きなニュースが出始める6カ月前から始まる」と語るのはポートフォリオ・マネージャーのリチャード・モリンだ。
「たいてい回復は、新聞がこの世の終わり的なニュースばかりを報じている頃から始まる。コロナのときもそうだった」
僕の友人たちは急いで株を買い戻したが、回復の一部は取りこぼした。それでも運の良いほうだ。どんな危機のときもそうだが、多くの投資家は相場回復に完全に乗り遅れる。彼らが己の損失と向き合っている間に市況は変化し、回復を始める。投資家が呆然とし、株を買い戻す気力を持てないうちに相場は大幅に回復してしまう。授業料の高い、非常につらい失敗だ。
投資資産が値下がりしても保有しつづけることが重要だ。というのも回復は何の前触れもなく始まるからだ。
ミシガン大学のH・ネジャット・セイハン教授が調査した30年間で、米国の相場上昇のほぼすべてが市場の開いていた7500日のうち90日、つまり全体のわずか1%ほどの取引日に生じていた。市場から資金を引き出し、この1%の取引日を逃してしまった投資家は、30年の長きにわたって一切運用益を得られなかったことになる。