6000時間のインデックス付き動画

私はビルも作ってみた。BBTや私の個人オフィスが入っているビルは「Ohmae@work」という。これも98年にできたのだが、当時は郵便局から名前を変えてくれと言われた。「@」という表記が一般社会には馴染みがない時代だったからだ。

このビルは全体に光回線が通っていて、どの部屋からどの部屋にもつながるようになっている。私のオフィスの応接室にチェンバースやアルビン・トフラーがきたときには、その場にカメラを置いて二人の会話を撮影、その場から配信できる。

私は95年から「マルチメディア・スーパー・コリドー(マルチメディアの超回廊)」というマレーシアの国家プロジェクトを主導したが、この建物そのものが「スーパーコリドー」になっているのだ。

地下には50台のパソコンをつなげられる講義室がある。アサインメント(課題)を出すと、皆一斉に取り掛かり、その様子を私は自分のパソコンから確認できる。全員の画面が覗けるから、「おい、こんなんじゃだめだ」と個々にアドバイスしたり、誰かの画面をプロジェクターに映し出して問題点を共有しながら講義することもできる。Wi-Fiの影も形もない時代からLANケーブルをつないで、そういう講義をしていた。

今、BBTで使っている遠隔授業用のプラットホーム「エアキャンパス」にしても、我々が独自の視点で開発したものだ。

ネットを活用した教育用プラットホームとしては「ブラックボード」がよく知られていて、アメリカで7割のシェアを誇る。我々は1999年に南カリフォルニア大学(USC)と提携して世界で初めてCS放送でMBAカリキュラムを提供したのだが、USCではブラックボードを使っていて、我々にも使うように要請してきた。

しかしブラックボードはサーバーにつながっていないと思い通りには使えない。たとえば新幹線や飛行機の移動時間や往復の通勤時間にBBTの授業を受けたり、ディスカッションに参加して書き込みたくても、オンラインでいなければ何もできない。(今は概ねつながるようになっている)

これでは使い勝手が悪いということで、パソコン通信の手法を応用し、オフライン時にはダウンロードしたデータが読め、オンライン時に同期して最新データに更新する機能を開発させ、エアキャンパスに搭載した。

この機能のおかげで、通勤時間にも授業が受けられるということで、社会人が多いBTT大学院の学生の視聴時間が1日2時間ほど増えた。

またBBTでは6000時間分の講義・映像コンテンツをライブラリー化しているが、これをキーワード検索して、一発で必要なコンテンツを引き出す機能もついている。たとえば「中国に進出している日本企業の失敗例」とキーワードを入れると関連のコンテンツがズラリと出てくる。ハイライトをクリックすれば、見たい場面からの頭出しも可能だ。ビデオで検索がかけられるこのシステム(エアサーチ)も世界初のシステムだと自負している。

その他にも、受講生が講義を視聴したかどうかをチェックする視聴認証システムや、講義を1.2倍速や1.5倍速で早聞きしたり、逆に英語などの講義を0.8倍速でゆっくり聞いても講師の声が正しく聞こえる(低音にならない)システムなど、エアキャンパスには他に類のないアイデアがたっぷり詰め込まれている。

すべて、一番のヘビー・ユーザーである私が「こんなものが欲しい」と思い付いて開発させたものだ。私は今、日本を変えていくためにはサイバー教育の拡充は不可欠だと考えている。その思いがある限り、私のアイデアが打ち止めになることはない。

(小川 剛=インタビュー・構成)