積極的に過去を捨てて、チャレンジする意味とは
このように、過去の人脈や経験に囚われないことによって人間の思考力は磨かれる。なぜそう考えるかという前提として、そもそも、現代のビジネスパーソンは昔とは異なるビジネス環境に置かれていることが関係している。
かつて就職はイコール就社だった。ところが、一流企業に入っただけで一生安泰という時代は終わり、自分の意思や願望とは関係なく、合併や買収などによってビジネス環境はめまぐるしく変化している。そうしたなかで大切なのは、社内における自分の地位や社内だけで通用する「ウチのやり方」ではなく、会社という枠をすべて取り払ったとき、自分にどれだけのスキルがあるか、ということだけである。
どこにいっても通用するスキルとは問題解決能力である。まず、何が問題なのかを発見し、最も正しい解決策を見つけ出し、それを実行できる能力のことだが、長年同じ仕事を続けていると、人間はどこに問題の本質があるかを見極める能力がしだいに低下してきてしまう。また、ひとつの経験が深くなってくればくるほど、新しいことを学ぶ能力も落ちてくる。
一般的に、大企業の部長職が転職する際、新しい会社で学習能力がなくて苦労するという話を耳にするが、それは過去のひとつの会社での経験だけに依存してしまい、まっさらな状態でゼロから新しいことを学ぶことができなくなっているからである。
そうしたことから、私は問題解決能力や学習能力、思考力を磨くためには、積極的に過去を捨てて、新しいことにチャレンジすることが一番よい方法であると思っている。
では、積極的に過去を捨てるにはどうしたらよいのだろうか。そのために今勤めている会社を辞める必要はなくて、同じ会社でも、東京勤務から地方の営業所勤務を願い出てみるとか、あえて赤字部門に出向してみる。その会社の名前すらほとんど知られていない新興国などは、もっともよい赴任先といえる。あるいは、開発担当から営業担当に異動してみるということだけでも、仕事内容は180度変わり、驚くほど目が見開かれるようになる。
また、もし部署を替われなくても、地域の活動に参加してみたり、趣味の会合に出てみたりするだけでも、新しい組織体系や、自分が予想もしていなかった手法を知る機会になる。
つまり、新しい能力を開発して思考力を身につけていくためには、過去の経験を捨て、過去が通用しない世界に飛び込んでみることなのである。
そのとき「自分はここでこういう能力を身につけたい」という明確な目標を持つようにしよう。そうすることで、過去に経験したAでもBでもなく、新たなCという方法を見つけ出すことができるようになり、どこにいっても通用する普遍的な能力を身につけることができる。そうすれば、もしある日突然、ビジネス環境が変化したとしても、生き残れる「しぶとさ」が身につくはずである。