中国人は「ファミリーヒストリー」にこだわる

――中国人が太古の昔と現在をつなげて捉えるのは、なぜなんでしょうか?

紀元前から面々と続く雄大な歴史はシンプルに「スゴい」ので、自信につながっているというのがひとつ。また、血縁関係の繋がりの深さも大きいと思います。世界的に見れば日本が薄すぎるのかもしれませんが、中国は親戚付き合いを非常に重視します。

撮影=プレジデントオンライン編集部

中国には伝統的に、父系の同族集団「宗族」の概念がある。その意識の強さは地方や階層によっても違いますが、社会保障の弱い中国では、家族や親族が相互扶助の基本単位として機能しているのは事実です。おばあちゃんの誕生日のためにレストランを貸し切って、ものすごく遠い親戚まで何十人も集まってパーティー、みたいなことも普通にありますから。日本でも法事みたいなものはありますが、開催頻度も呼ばれる人の範囲も、中国の方がずっと大きい。

そうなると、祖父母のさらに前の代といった繋がりも身近になり、ファミリーヒストリーも重視されがちです。どこまで史実に基づいているかは別として、我々は劉備の末裔まつえいだとか、「500年前のご先祖は○○省に住んでいた」みたいな話は、親戚の集まりに顔を出している限りは共有されていく。問題点は、文化大革命や天安門事件のような気まずい歴史は伝承されにくいことですが。

ちなみに、近年ではこうした濃厚すぎる親戚付き合いに嫌気が差す人も増えており、春節(旧正月)休みには海外旅行に行って親戚関係の呪縛から逃れるという人も出てきています。ただ、中国の家族・親族関係の濃厚さは社会構造に由来する部分も大きいので、容易には薄れません。

「人気アイドルの先祖」がゴシップネタになる

――有名人の先祖についても、日本人だとよほどの名家の出身者以外は、せいぜい祖父母の代、明治〜大正ぐらいまでしか意識しませんよね。「岸田さんも石破さんも世襲だ」くらいのことしか言われない印象です。

中国人にとって「有名人は誰の子孫か?」は気になる話題なんですよね。中国に関暁彤(グァン・シャオトン)という女優がいます。韓流アイドルグループ「EXO」の元中国人メンバーの鹿晗(ル・ハン)の恋人としても、一部で有名な人です。

2016年に撮影された中国人女優の関暁彤(グァン・シャオトン)さん(画像=Aco/CC-BY-2.5/Wikimedia Commons

彼女は少数民族の満州族の出身ですが、祖先が清代の満洲貴族のグワルギャ氏の家系だったのか、隷属民の包衣ボウイだったのかという話が芸能記事になっている。本人は別に「私は貴族の末裔」みたいな売り出し方をまったくしておらず、先祖を公開しているわけでもないのに、外野が勝手にルーツ探しをして、それがゴシップになってしまう。彼女は1997年生まれで、日本でいえば生田絵梨花や松井珠理奈と同世代の女性なんですが(笑)