大手デベロッパーが地上げした土地を所得していた

取材した記者も、改めて警察や行政に取材した。すると、やはり明確な犯罪行為でないと取り締まることはおろか、止めさせることも難しいということだった。

土地の取引は、主に地権者と民間の開発事業者との間の問題であり、民事不介入の案件とされる。ただ、その原則は個人間の紛争である場合に守られるものであって、今回のような嫌がらせがそれに該当するというのは違和感があった。

筆者撮影
「地上げ屋」が設置した嫌がらせの張り紙

さらに、衝撃だったのは、この業者が首都圏の別の場所で地上げした土地では、大手デベロッパーがいわゆるブランドマンションを建設していたという事実だった。私たちは地上げに詳しい業界の関係者たちを取材した。すると、こんな証言が得られた。

「大手デベロッパーはコンプライアンス(違反)だ、反社(との関わり)だと騒がれるので、みずからこうした地上げには手を染めません。ほかの誰かがイメージの悪い地上げや立ち退きを行って、これらの土地を売り物に変身させないといけない。今回の業者のような“汚れ役”は実際には再開発に欠かせないのです」(地上げに詳しい不動産関係者)

さらに、私たちはある大手デベロッパーの幹部からも話を聞いた。幹部は、多くの新築マンションは正当な取引に基づく土地に建てられていると主張した。ただ、近年は首都圏、特に東京では開発できるまとまった土地が極めて少なくなっているとした上で、言葉を選びながら、こう続けた。

「デベロッパーの仕入れ担当ならどの業者がどういうスタイルで交渉しているか、ある程度認識しているはずです。その上で、多少強めの交渉をしていたとしても、許容できるレベルのリスクであれば、そういう業者から土地を取得することはあると思う」

住民の声があるからこそ、真相が見えてくる

「このテーマは深掘りしたい」

私は10年来さまざまな番組で苦楽をともにし、このテーマにも通じているチーフプロデューサーに相談し、取材班を結成。半年にわたる取材の成果を2023年4月にクローズアップ現代「令和の地上げトラブル その実態は?」で放送した。

さらに、首都圏のマンション需要や再開発の現場で取材を重ね、夕方の番組「首都圏ネットワーク」やデジタルサイト「首都圏ナビ」の中で、「不動産のリアル」と題して2年近くにわたって、シリーズ展開を続けてきた。そして、これらの取材は本書のもとになる2024年1月のNHKスペシャル「まちづくりの未来~人口減少時代の再開発は〜」に結実することになる。

NHK取材班『人口減少時代の再開発』(NHK出版新書)

一連の取材で、私たちが大事にしてきたのが、不動産の専門家たちだけでなく、地権者や住民たちの声だ。実際に、私たちの放送や記事を見て、毎回身近な再開発やマンションの問題などについて、多くの方々から情報や意見が寄せられている。どの分野でも、専門的な法律や知識、さらに業界の慣習を知悉ちしつしていなければ、問題の所在が理解できない。

ただ、届けられた情報を読みながら痛感したが、この不動産という領域は、当事者たちからの声を聞いて初めて知ったり、気づかされたりすることがより多くあると感じる。だからこそ、皆さんからの情報提供は心からありがたい。

一方で、それに甘えてばかりいてもいけない。こうした再開発に関わる案件は、民間同士の取引に見えても、行政も許認可などで関わっている。それらの情報はオープンにされなかったり、目につきにくい担当部局のホームページに載せられたりしているだけだが、だからこそ、取材するこちら側の問題意識と感度が試されている。

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