ビルの入り口につるされた「腐った肉と魚」

地上げは「不動産会社が土地を買いつける行為」で、そのこと自体は合法な取引とされる。ただ、その土地を買うため、地主や借家人を立ち退かせる過程で、しばしば嫌がらせが行われてきた。

悪質な「地上げ屋」が横行したのは、昭和のバブル経済期。首都圏では1年で地価が3倍に急騰したところもあり、住民を立ち退かせるため暴力団などが関与して住宅やアパートなどを打ち壊したり、傷害事件まで起きたりするなど深刻な社会問題にもなった。

その地上げが令和となった今も本当に行われているのか。最初はにわかに信じられなかったが、記者から現場の映像を見せられ、はっとした。

そこに写っていたのは都心の住宅街にある築49年の雑居ビル。その軒先にロープでぶら下げられていたのは生肉や魚だった。壁にはスプレーで落書きもされていた。

画像提供=NHK取材班
ビルの出入り口に吊るされていた肉や魚からは、異様な腐敗臭が漂っていた

調べると、このビルは2022年7月に地主から中小の不動産業者に売却されていた。現場周辺を取材すると、その直後からビルの住民のもとに深夜2人組が訪れて、引っ越し代は出すので2カ月以内に立ち退くよう求められたという。

「スーツを着た男2人が夜中の11時ごろにきた。『いったん考えるので日を改めてほしい』と言ったにもかかわらず、『いや、今すぐやってください』と言われた」(元住民)

結局、この住民は今後も夜中に何度も来られては迷惑だと考え、立ち退きに応じるハンコを押したという。ただ、入居者のなかには交渉に応じなかった人もいた。そうしたなか、行われたのがさきほどの悪質な嫌がらせだった。

住民が嫌がらせをされても警察は動かない

いったい誰がこうした行為に及んだのか。

私たちの取材で、男たちはビルの新たな所有者である不動産業者の従業員であることがわかった。さらに、驚いたことに、その業者は首都圏の別の場所でも悪質な地上げを行っていたのだ。

都内の駅から徒歩5分ほどの住宅街。住民は一帯を所有する地主から、土地を借りて家を建てて住んでいたが、この地主が亡くなったことをきっかけに一帯の土地が不動産業者に売却され、そこから立ち退きが求められるようになったという。

そこに住む夫婦が取材に応じてくれた。夫婦は2036年まで土地を借りる契約を結んでいた。そのため、立ち退きに応じなかったところ、さきほどの男たちが現場に居座るようになった。隣の土地にテントを張って朝まで大音響で音楽を流したり、外出する時に後をつけたりしたという。住民は警察や行政に何度も相談したというが、男たちは聞く耳をもたなかったそうだ。

画像提供=NHK取材班
居座る4人組の男たち。朝まで大音量で音楽を流すなど、住民に対して嫌がらせを続けていた

「警察が『こういう行為をしないでほしい』と言っているのに、『ここは自分たちの土地なんだから関係ない』と突っぱねる。これだけの嫌がらせを受けているのに、(警察や行政が)一歩も入れないというのはどういうことなんでしょうか」(住民)