「警察からのリーク」は今後一切記事にしないのか
本当に当時の記者たちに責任があるのだろうか。
もし疑問があるならば、毎日新聞本社編集局が、静岡支局記者たちの原稿を読み、単独会見のメモなどを取り寄せて、袴田さんを「犯人」とした捜査手法の間違いに目を向けて、徹底した調査取材を指示すべきだろう。
上からの指示で必死に取材に飛び回っていた記者たちの責任というよりも、過去の冤罪事件をよく知る取材経験豊富な本社編集局幹部らの対応にこそ問題があった。
袴田さんの事件で、当初、毎日新聞は特ダネを連発した。特ダネとは、警察発表前に刑事らの自宅などで直接取材して、他社の知らない新たな情報を提供してもらい、独自の報道に結びつけることである。
現在でもこの取材手法は同じである。検察、警察は自分たちの都合のよいように事件を進めるためにリークを行い、各報道機関に特ダネとして記事を書いてもらっている。
もし、「捜査当局と一体化したような書きぶり」「自白に重きを置きすぎた報道」「捜査手法に疑問の目を向けたものではなかった」を問題にするならば、今後、毎日新聞は検察、警察からのリークは記事にしないことになる。
袴田事件をもって、今後は公式発表をそのまま載せるか、独自取材しかやらないということにはなるまい。
検察、警察への追及があまりにも甘い
袴田さんの無罪判決をめぐり、毎日新聞はもう1つ大きな問題を残してしまった。
静岡地裁が捜査当局の「捏造」を認定して無罪判決を出した前日の25日、毎日新聞静岡県版は、元最高検幹部の伊藤鉄男弁護士のインタビュー記事を掲載した。
そこで、伊藤弁護士は「誰一人として捏造をしたという者も、それに協力した者も、それを見たという者も存在しない。これだけの重大事件であまりにも不合理な認定がされることは、公正誠実を求められている検察としては見過ごせない」と当局の「捏造」を頭から否定する発言を掲載している。
これも何ら裏付けのない当局側の情報・発言をただ垂れ流しただけではないか。坂口編集局長は翌26日の「おわび」で、「当局による情報隠しが行われていないかを監視し、証拠の開示など適正な刑事手続きが行われているかをチェックすることがますます重要」などと述べている。まるでひとごとである。寝言を言っているようにしか思えない。
坂口編集局長の「おわび」が表面的なきれいごとでないならば、裁判官の心証ではなく、検察、警察が「捏造」したとする証拠などの情報隠しをちゃんと明らかにしなければならない。それでなければ、9月25日の伊藤弁護士のインタビュー記事を読んだ読者らは納得できないだろう。