交際相手に300万円を貢いだ悲しい理由

隼人はまもなく30歳になるが、犯行態様からは想像もつかない中性的で大人しそうな少年という雰囲気だった。懲役16年の判決を受け、地方の刑務所で受刑生活を送っていた。隼人はどうすれば事件を起こさずに済んだかという質問に、

「もっと金を稼げていれば……」

と答えた。

隼人は被害女性に300万近く貢いでいたと報道されていた。

「彼女は金のある男を選んだんですよ……。女ってそういうものでしょ?」

筆者は首を傾げた。

「結婚して、ホステスを止めさせたかったんです。母のようになって欲しくなくて……」

希美が現在の夫と出会ったのは、ホステスをしていた頃だった。隼人は、義理の父親の橋本が大嫌いだった。

「母は橋本を金で選んだんですよ。祖母も橋本のことを勧めたはずです。母に水商売をさせたのは祖母なんです」

隼人は幼い頃から両親が共働きだったことから、よく祖母の家に預けられていた。

「祖母の家に行くと、まず、金を払えと言われるんです。何かあった時のためにと、母が少しお金を持たせてくれるのですが、いつも祖母に取り上げられていました。お金を持って来ないと、食べ物は与えてもらえません」

希美は母から酷い虐待を受けて育ったと話していたが、そんな母親の下に、なぜ息子を預けたのか。

「母から祖母の悪口はよく聞かされていました。それでも、祖母の虐待から僕を守ってくれることはありませんでした。母は、父と関係が悪くなると祖母に頼るんです。今もそうです」

祖母はまだ健在で、希美を支配しているという。

「母も祖母も、うんざりです……」

「もう息子と会わないで下さい!」

隼人と面会をして1年が過ぎた頃、希美から電話があった。

「息子から手紙が来て、阿部さんが面会に来るので家族と面会ができなくて困るというんです。正直、凄く迷惑してるんです! もう、息子と会わないで下さい! よろしくお願い致します」

電話の声は確かに希美だったが、いつになくヒステリックで、こちらが話す間を与えず、一方的に電話を切った。そもそも、希美が面会しろというから面会していただけで、隼人も嫌ならば、面会を拒否することができるはずなのだ。

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しばらくして、隼人から面会に来て欲しいという手紙が届き、希美の電話の意図がようやく理解できた。希美は夫と離婚したことから、出所後、一緒に暮らそうと言い出したのだ。隼人はそのつもりはなく、これまで通り社会復帰については筆者と相談して進めると返信すると、「阿部さんは隼人の面倒を見る気はないと言っている」と書かれた手紙が届いたのだという。希美は面会に訪れたが、会いたくないので拒否しているとも書かれていた。

自分の意に沿わなければ相手に攻撃的になる希美の行動は、隼人の犯行を思い起こさせるものだった。一見穏やかに見えるが、気性の激しい性格は、よく似ていると感じた。