違和感があったら「敬語抜きの表現」に言い直して考える

単純に相手の名前を知りたいのなら、「名前を教えてほしい」「名前を聞いてもいいか」と尋ねるべきでしょう。いくらでもまともな表現があります。

「お名前をお教えください」
「お名前をお教え願えますか」
「お名前を教えていただけますか」
「お名前を伺えますか」
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか」

これなら、相手によほど後ろめたい事情がない限り、素直に教えてもらえるはず。

「いただく」「頂戴する」は、盛りすぎ言葉の代表格です。

「お電話番号を頂戴できますか」
「ご住所をいただけますか」

しかし、これらも名前と同じく、電話番号や住所も人にあげられるものではありません。花やケーキとは違うのですから。「お名前様をいただけますか」とマニュアルで使うように定められているのかもしれませんが、そんなものを他人にあげたら、なりすましを許すことになってしまいます。

ホテルの宿泊やスポーツクラブの会員登録で相手に名前を書いてほしい。そんなときは、記入先を指して、こう言えばよいでしょう。「こちらにお名前とご住所・お電話番号をお書き願えますか」「こちらにお名前と必要事項をご記入いただけますか」敬語の用法で混乱したり、疑問に感じたりしたら、今回のように敬語を省いた元の言い方に直してみること。迷路をぐんぐん進むより、最初に戻るのが近道です。

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「こちらにご記入ください」でも十分丁寧な表現

「こちらにご記入いただいてもよろしいでしょうか」

前田めぐる『その敬語、盛りすぎです!』(青春新書インテリジェンス)

「いいえ、ダメです。記入できません」。契約書に記入せずには話も進まないけれど、もしこう答えたらどうなるのかな……そんなイケズなことはしませんが、そう思わせるくらいへりくだりすぎの表現です。

本来なら「こちらにご記入ください」でいいはずです。物足りなければ「どうぞ」を頭に付けて「どうぞ、こちらにご記入ください」とすれば、丁寧な印象になります。それでも「ください」で終わると命令されているように感じる人がいるため、このような言い方になったのでしょう。

それにしても、いくら空気を読む時代とはいえ、ここまでへりくだる必要があるでしょうか。人に何かを頼むとき、さまざまな疑問形の依頼文を使うことは、これまでにもありました。

「こちらにご記入くださいますか」
「こちらにご記入くださいませんか」
「こちらにご記入いただけますか」
「こちらにご記入いただけませんか」
「こちらにご記入いただきたいのですが」

こうした単なる依頼の表現なら何の問題もありません。それをわざわざ「(あなたに)ここに記入してもらってもいいか」と許可を求めているところに違和感があるのです。