完璧な答えは出さなくてもいい。「相手が本当に必要な情報」を探るためのヒアリング術
小林:他にも「平安京の住宅地図を見たい」と言われたこともありました。平安時代に住宅地図なんて作られていませんから、形式的に正しい答えは「ありません」です。
ですが、完璧な答えを準備できないからって全く情報を提供しないよりは、少しでも情報を出した方が、相手の満足度は上がりそうですよね。なので、完璧に正しいわけではない資料でも、使えるものは出しちゃっていました。
――それはビジネスにおいても大切ですね。完璧な正解はなくても、ヒントになるような資料だけでも出す。
小林:よくよくヒアリングしてみると、質問してきた人も、別に平安京の小型模型を作りたかったわけじゃなくて、昔の資料を読んでいたときに「あの人の邸宅はどのあたりかな」と気になっただけだったんですね。
そのレベルの情報ならば、そこまで精密な地図が必要なわけじゃない。高校生が持っている国語の便覧の大型版みたいなものが図書館にあって、そこに略地図が書いてあるので、それをお見せすればいいということで、情報を提供しました。
――質問する人が欲しい情報を深く理解して調べ物をされているのが印象的です。
小林:「調べたい事柄についてどこで聞いたり見たりしたのか」という文脈をなるべく聞き出すようにしていましたね。人物調査の場合には、その人がどこでどれくらい有名な人なのかで探し方が全然違うんですよ。なので、質問者とは長めに話をするよう心がけていました。
「何を職業にされてたんですかね?」という質問をして、その人がいた場所や時代を聞いていくとか。その情報のコンテキストを探る質問ですね。世間話が得意な人の方が、難しい調べ物をするのは得意かもしれません。
――他にも調べ物のコツはありますか?
小林:すぐに答えが出ない難しい質問に答えようとする場合、一度に時間をたくさんかけるんじゃなくて、少し時間をあけながら少しずつ進めたほうが答えが出やすいかもしれないですね。
調べ物は推理小説にちょっと似ていて、証拠集めをしたら、それを眺めてちょっと考える時間が必要なんです。集まった情報を眺めている間に、調べるのに役立つ、違う視点も見つけられることもありますし。
調べた内容をぼんやり眺めながら、こっちの証拠が足りてないなとか、ダメ元でもう一度調べてみるかと考えていましたね。
難しい質問への答えが出る時って大抵「だいたい調べてみたけど何も見つからなかった」「試しにこっちも調べてみよう」ってジグザグ進めながら調べているときなんですよ。
――調べるコツをうまくつかめるようになれば、調べることがより楽しくなりそうな気がします!
小林:私は趣味で8年ほど「立ち読みの歴史」について調べているし、調べることをライフワークとする「趣味人」になろうと思っているくらいですからね(笑)
私の経験としても、調べるスキルを高めると、まず、仕事が楽しくなった実感がありました。仕事の進め方という側面でも、思い込みによる間違いを防いだり、アイデア出しの幅を広げられたりとメリットが多かったです。
その先に、皆さんも視野が広がったり、業界や物事の全体観がわかるようになったりする楽しさを感じてもらえると思います。
取材・文:りょかち 写真:関口佳代 編集:はてな編集部 制作:マイナビ転職