出稼ぎ女性は「マカオの名物」だった
朝鮮半島系の女性たちの写真を見た翌日、僕は二〇一〇年代に訪問したマカオを改めて思い出していた。かの地の有名スポットの一つに、「ホテル・リスボア」がある。二〇二〇年五月に死去した「マカオのカジノ王」ことスタンレー・ホー氏がオーナーだったカジノホテルだ。訪澳した際、ふらりと訪ねたことがあった。
カジノエリアに入る前、建物内をうろうろしていると、その一画で奇妙な光景に出くわした。化粧バッチリで、いずれもスカート姿のおしゃれな若い女性たちが、フロアをぐるぐると歩き回っている。彼女たちを主に大陸系と見られる中国人男性たちが、少し遠くから眺めていた。女性たちが醸し出す妖艶な雰囲気と、いやらしさが混じる彼らの熱視線からピンと来るものがあった。
帰国後にネット検索すると、すぐに引っ掛かった。彼女たちは予想通り、売春婦。ホテル・リスボアの特定エリアを闊歩しながら、男性客から声をかけられるのを待っている。ネット情報によると、休まずに動く様子から、「リスボア回遊魚」「回遊魚」と名付けられていた。彼女たちは、中国大陸からの出稼ぎ女性とのこと。海外での風俗に関心が高い男性の間では、マカオの名物的存在として知られていた。
「リスボア回遊魚」ときれいにリンクする
今回、本書を出すにあたり改めて調べると、彼女たちはすでに〈絶滅〉していた。二〇一五年一月に大規模な摘発があったとするネット記事も見つかった。今となっては貴重な目撃となった。なお、僕は偶然にも、日本人の知人男性から彼女たちの接客ぶりを聞く機会があった。「極めてビジネスライク」とのことだ。
Bさんから聞いた「カジノと女性はセット」という言葉は、「リスボア回遊魚」ときれいにリンクする。スカートから伸びた女性たちのすらりとした生足の記憶は、Bさんの言葉に極めて説得力を持たせた。
カジノに触れたことがない読者は、戸惑うかもしれない。しかし、こうした知られざる実態を告白する男性は他にもいる。二〇二〇年一月二七日、「神奈川新聞」は「米国内で三〇近くのカジノのデザインを手掛けてきた」「日本人建築デザイナー」のインタビュー記事を載せた。そこには、次のような言葉があった。