最大のリスクは行き過ぎた軌道修正

こうして整理してみると、総裁選の中で指摘された緊縮財政や利上げ容認、金融所得課税強化、法人税増税といった、金融市場、特に株式市場にとってネガティブな政策を、石破政権は景気優先の基本方針の下で、市場への影響も考慮して現実的に判断、必要に応じて軌道修正して進めると考えるのが自然である。市場の懸念は杞憂に終わる可能性が高いだろう。

むしろ、石破政権の経済政策運営におけるリスクは、そうした軌道修正が行き過ぎることではないだろうか。

例えば、利上げ容認姿勢を修正し、利上げ否定ともとれるメッセージを出したことで、ドル円相場は一時1ドル=147円台まで円安が進んだ。これが行き過ぎると、輸入品価格の上昇を通じて物価が押し上げられ、ようやく物価上昇を上回った賃金の上昇が再び物価上昇に追いつかなくなり、個人消費の回復を遅らせてしまう。

また、景気回復局面でいたずらに金融緩和を長期化すれば、1980年代後半と同様、株式や不動産などの資産バブルに陥る恐れがある。その出口を誤ればバブルが崩壊、デフレに逆戻りすることもあり得る。適度な利上げと円高こそが、安定した経済成長に必要ではないだろうか。

「ブレ」による不透明感が混乱の種になる

政策の軌道修正が「ブレ」という評価に変わることもリスクであろう。政策の進め方が多少変わったとしても、軌道修正だと受け止められるうちは、大きな方向性が共有されているため、混乱は限定的なものにとどまることが多い。

しかしながら、「ブレ」となれば政策の方向性に不透明感が強まり、状況を見極めるため経済活動は一旦停滞、そうした動きが増幅されがちな金融市場は大きく混乱しよう。

石破首相は、信念を貫く人、ブレない人だという点が評価されていたように思う。ポピュリズムが如く周囲の声に過度に振り回されることなく、明確に方向性を示し、軌道修正の際には丁寧に説明し不要な混乱を避けることで、安定した経済政策運営を進めることが望まれる。

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