AIスマホで「エコシステム」に囲い込めるか
Appleは2020年末から「Apple One」というオール・イン・ワンのサブスクリプションサービスを日本でも提供し始めた。これには音楽配信のApple Music、動画配信のApple TV+、ゲーム配信のApple Arcade、クラウドストレージのiCloud+が含まれる。この他にも決済サービスのApple Pay、ニュース配信のApple News+、電子書籍配信のApple Books、アプリダウンロードのApp Storeなどを提供し、「サービス会社」への変革を進めてきた。
またアメリカでは、4%以上の金利で話題となった預金サービス(Apple Cash、いわゆるApple銀行)やクレジットカードのApple Card、POSレジアプリのTap to Payなどの金融サービスも提供している。
消費者はiPhoneやiPad、Apple Watchなどのデバイスを通じて、Appleの生活関連サービス全般を利用する。そうした消費者の行動がAppleの売り上げにつながる。つまりAppleはiPhoneなどの商品単体ではなく、エコシステム全体の売り上げで成長を続けているのだ。
独自の生成AI機能を搭載したiPhone 16は、Appleのエコシステムへの消費者の囲い込みを加速できるのか。iPhone 16でスタートを切った生成AIスマホの成否は、Appleの将来的な業績を大きく左右すると見ていいだろう。
Appleに迫りくる世界的な「規制強化の波」
とはいえAppleの今後が安泰かというと、そうとも言い切れない。中国ではシャオミやファーウェイなどがすでにAI搭載スマホを発売しており、スマホにおけるAI搭載では、Appleは出遅れたと言わざるを得ない。またファーウェイは9月10日に世界初の三つ折りスマホ「Mate XT」を発表し、公式価格が約40万円のところ、約85万円で転売されるほどの人気だという。製品の機能や新規性でも、中国メーカーがAppleの先をいく事例が増えてきた。
もっとも、中国のメーカーは、アメリカでは販売規制などもあり、Appleの牙城を脅かすまでには至らない。スマホを中心としたエコシステムの競争においても、アメリカ・欧州主要国・日本を中心とする「グレーター・アメリカ」と、中国・アジア・アフリカを中心とする「グレーター・チャイナ」の両陣営のすみ分けが、より一層顕著なものとなるだろう。
またAppleは、製品やサービスにおける高いCX(カスタマー・エクスペリエンス=顧客体験価値)においても、中国勢に対して優位性がある。Appleの高いCXを実現しているのがApp Storeによるアプリの独占提供だが、これはEUによって「デジタル市場法」違反と認定された。日本でも類似した内容の法律「スマホ特定ソフトウェア競争促進法」が成立し、2025年内には施行される。こうした世界的な規制強化の波にAppleのエコシステムがどのように対応していくのか、十分に注視する必要がある。