「スマホ買い替え需要」を喚起するためのカギ

一方で独自の生成AIを搭載するiPhone 16の潜在需要は、非常に高いという調査もある。ブルームバーグ・インテリジェンスによれば、現在、世界で使用されているiPhoneは約8億台であり、そのうち40%以上がiPhone 12かそれよりも旧型、さらに27%がiPhone 13だという。

Appleによれば、Apple Intelligenceに対応する機種はiPhone 16以外ではiPhone 15 Pro/15 Pro Maxに限られ、それらを保有する消費者は10%にも満たない。したがってAI機能を求める消費者が多ければ、iPhone 16への買い替えが促進される可能性がある。

また2021年からiPhoneの売り上げが伸び悩んでいるということは、裏を返せば、多数の消費者が古い機種を使用していることを示している。そのため高機能モデルに乗り換える準備ができているという見方もできる。実際、生成AI「Gemini」に対応したGoogle Pixelがシェアを急拡大しており、生成AIを搭載した新世代スマホには、需要の起爆剤としての期待がかかっている。

今回のiPhone 16は、iPhone 15シリーズ(発売時)と比較しても価格が据え置かれている。2025年のApple Intelligence搭載を見越した買い替えは、ある程度は起こるだろう。Appleは「買い替えたくなるようなストーリー」を展開していると言える。

過去の新機種のように前年比で倍増とまではいかないだろうが、今後数年がスマホを買い替える大きなタイミングとなる可能性は高い。

Appleが「時価総額世界1位」を成し遂げた理由

iPhone 16は、プロダクトとしての評価だけでなく、Appleが提供する「サービス」の側面からも見ていく必要がある。iPhoneはAppleが提供するサービス全般、つまり「エコシステム」の中核に位置付けられているからだ。

Appleの売り上げ構成においてiPhoneは50%強を占めるが、次に大きいのがApp Store、Apple Music、Apple TV+などの「サービス」であり、合わせて20%強を占める。iPhoneとサービスで、実に約75%を占めているのだ。

【図表】Appleの売り上げ構成
プレジデントオンライン編集部作成

今年5月に公開した記事〈「iPhoneより安くて速いスマホ」の中国企業が、「テスラより安くて速いEV」を発売…自動車業界を揺るがす大衝撃〉」でも紹介したが、スマートフォン黎明期にiPhoneに市場を席巻されて業績が悪化したNokiaのCEOが、全社に発信したメッセージがある。

競合他社はデバイスで私たちの市場シェアを奪っているのではありません。エコシステム全体で私たちの市場シェアを奪っているのです

競合他社、つまりAppleはiPhoneというデバイスだけでなく、ユーザーへの生活サービス全般、すなわちエコシステム全体でNokiaの市場シェアを奪った、という主旨だ。これは2019年に当時のNokiaの会長が上梓した『NOKIA復活の軌跡』(早川書房、解説章は筆者が担当)に掲載されている言葉である。

当時からスマホ市場におけるプレーヤーだったAppleとソニーを比較すると、ソニーは1999年頃に、当時の史上最高となる13兆4600億円の時価総額を叩き出した。一方、現在では、エコシステム全体の覇権を握ったAppleの時価総額は約382兆円。スマホの領域ではほとんど何も獲得できなかったソニーの時価総額は約16兆円だ(※Apple、ソニーの時価総額は2024年4月19日現在)。この事実は、エコシステムの覇権を握ることがいかに重要かを如実に物語っている。

【図表】ソニー、サムスン、Appleの時価総額推移比較
筆者作成