なぜ高気密・高断熱の賃貸住宅が供給されないのか

ではなぜ、日本では、高気密・高断熱の賃貸住宅が供給されないのでしょうか?

それは、高気密・高断熱化に伴って増加する建築費の費用負担者がオーナーであり、メリットの享受者が入居者であることが最大の理由のようです。持ち家と違って費用負担者とメリット享受者が異なるのです。

ちなみに、戸建住宅に比べて集合住宅は、床面積に対する外壁の面積が少ないので、床面積あたりの高気密・高断熱化に伴う建築費増加額は、戸建住宅に比べるとかなり安く済みます。つまり、本来、賃貸住宅(集合住宅)の高気密・高断熱化による経済的なメリットは、戸建住宅よりも大きいのです。

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そのメリットをオーナーと入居者がシェアできるようになるといいのですが、その点においては、賃貸住宅のマーケットが未成熟なのが現状です。つまり、メリット享受者である賃貸住宅に住んでいる方々が、断熱・気密性能にあまり関心がないのです。

本来、高気密・高断熱の賃貸住宅ならば、家賃が多少高くても、それ以上に冷暖房光熱費が下がるので、入居者も経済的なメリットがあります。ただ、消費者がそのことを知らないため、オーナーが高気密・高断熱化してもその価値を家賃に反映しにくく、賃貸事業の収益性の向上が見込みにくいのです。

断熱等級や光熱費はSUUMOでもチェックできる

高気密・高断熱の賃貸住宅の供給を増やすことは、国民のQOLの向上や健康増進といった定性的なメリットに加えて、家庭部門の温室効果ガス削減等、さまざまな面から社会的にもメリットがあります。

高気密・高断熱賃貸住宅の供給促進には、国や自治体の積極的な施策が必要です。ですが、それ以上に、消費者が住宅性能に関する知識を持つことで、高気密・高断熱賃貸住宅のニーズが顕在化していくことが重要だと考えます。

消費者が賃貸住宅を選ぶ際に、断熱性能や住宅の燃費性能を意識するようになり、積極的に高断熱賃貸住宅を選ぶように行動変容を促すという目的で、今年4月から建築物省エネ法に基づく「省エネ性能ラベル制度」が始まっています。

この制度は、賃貸住宅や分譲住宅において、住宅のエネルギー消費量や断熱等級、そして目安の光熱費が表示されるものです。 SUUMOなどの大手不動産ポータルサイトでも、このラベルでその住宅の性能を見ることができるようになっています。