航一が夫や父親としてはちょっと頼りなく見えたワケ

子育ては、自分の父や百合さんに任せた方が子供にとって間違いないだろうと思っていたので、子供のことや家庭のことを顧みなかった。自分の殻に閉じこもるということは、成長しないことなので、無責任に見えるのは、自己肯定感の低さがそうさせているのだと思いながら書きました。

とはいえ、航一さんは自分に自信がなく、ある意味押し付けのような一方的な愛を子どもに対して持っている。その愛の一方通行ぶりも自覚しているから、優秀な自分のお父さんと百合さんに育てられた方が良いに違いないと、自分の中で愛情に蓋をし、勝手に結論を出してしまったんですね。

しかし、そんなところから、寅子と巡り合い、再会を果たし、だんだんと恋心が芽生えていく。そんな中、自分を徐々に嫌いじゃなくなっていったわけです。航一に思いを告げた寅子に対し、航一が「あなたといると、つい蓋が外れてしまう。全て諦めたはずが、ついあなたのように人に踏み込んでしまう。驚くことにそんな自分が嫌いじゃない。それだけで、あなたと出会えて良かった。それだけで十分です」というセリフがありました。そこから前出のやりとりに続きます。

新潟で寅子と恋に落ちた航一はマリオのような「無敵状態」に

航一は、自己肯定感の強い寅子マジックを浴びて、魔法に包まれたまま新潟で3年間を過ごしてしまったんですよ。言ってみれば、寅子マジックによって、マリオ(ゲーム『スーパーマリオブラザーズ』)のスターを持っているような無敵状態で東京に帰ってきた。そんな航一の変化に星家の人々も気づいて、寅子との関係性に内心戸惑ったけれど、言葉では「もう大人同士だから」などと言われ、許容された。

航一は子供たちの真意を理解せず、その言葉を真に受けて、だったら結婚もしたい、自分の愛する人について堂々と愛していると言いたいという気持ちが湧いてきてしまう。そして、寅子と「家族のようなもの」になっても、きっとこの寅子マジックのまま無敵状態が続くと思っちゃっていた。一種のハイ状態です。でも、いざ寅子たちと同居を始めたら、そのパワーは特に自分の子供たちに対しては全然効力を持っていなかったわけです。

写真提供=NHK
連続テレビ小説「虎に翼」第21週より

人と関わらないでいると、余計なことを言わないから、周りが勝手に好意的に解釈して、評価が上がっていくことって、よくあるじゃないですか。しかも、航一は基本的に仕事だけしていたら優秀な人だから、たぶん寅子も航一をもっと大人だと思っていた。だからこそ最初は何を言っても「なるほど」と返すばかりで、考えていることが全く読めない彼に、苦手意識を持っていたわけです。