劇中の寅子が改姓に抵抗のない女性だとはどうしても思えなかった

三淵さん自身はおそらく再婚で姓を再び変えてもいいと思っていたでしょうし、もしかしたらむしろ積極的に「三淵」になりたかったのかもしれない。そうであれば、史実通りに、寅子も姓の問題で悩まずに結婚しちゃうというのもアリだったんですが、そうしてしまうと、今の世の中に男女平等を問い、「見えない」ことにされている人を扱うというこのドラマの意味趣旨においては、違うんじゃないか。改姓の問題に触れずにそのまま結婚を描くこと自体、男女平等や女性の社会進出を虐げるメッセージになりかねないと思ったんです。

そこは私も本当に悩みました。第21週では夢の中で結婚前の「猪爪寅子」や最初の結婚をして法律家になった「佐田寅子」、そして再婚して改姓した場合の「星寅子」が出てきて、姓を変えるべきかどうか議論しました。その場面などは、ぜひe-bookのシナリオで読んでいただけると、きっと面白いと思います。

ここまで生きてきた寅子が何も考えず、「私が星姓になることに抵抗はありません」とか「むしろ星姓になりたいです」なんて言うとは思えない。史実通りでは「結婚すること=女性は相手の苗字になりたい」というようなメッセージを打ち出すことになりかねないので、史実とは違う事実婚を選択するというのは、2024年の今、描く意味があると思いました。

もちろんそれに対しての批判もあるだろうということは、最初からわかっていましたし、覚悟もしていました。三淵さんの遺族の方とは、制作統括の尾崎裕和さんや取材法律考証の清永聡さんが話をしてくださって、ご了承いただいた形です。

【参考記事】「41歳で再婚して『崖っぷちの心に余裕が出た』…朝ドラのモデル三淵嘉子と裁判官の夫は最後までラブラブだった」