汎用性のある「ポータブルスキル」がより重要に

現状ではシニア層の転職は難しく、労使双方が問題を抱えている。働き手の問題としては、前職での賃金などの処遇面や管理職ポストなど労働条件で妥協することができないという点。一方、雇用主の企業側の問題としては、自社への転職希望者が能力や実績のある人材であっても、年齢だけを理由に採用に尻込みするという点である。

この背景には、日本企業ではいまだ、職務内容に適した人材を採用する「ジョブ型」雇用ではなく、人に仕事を合わせる年功序列型の「メンバーシップ型」雇用が多数派であるという事情もあるだろう。狭き門を突破して定年前後で転職が実現しても、賃金は前職に比べて減るのが一般的だ。

厚生労働省の令和2(2020)年「転職者実態調査」によると、転職者を対象に転職前後で賃金が増加した人の割合から減少した人の割合を引いたDI(Diffusion Index)は、50歳以上の年齢階級すべてでマイナスとなっているが、60〜64歳でマイナス46.6ポイント、65歳以上(最年長の年齢区分)でマイナス50.3ポイントと、年齢が上がるほどマイナス幅が大きかった。

奥田祥子『等身大の定年後 お金・働き方・生きがい』(光文社新書)

60〜64歳で賃金が減ったと答えた61.2%の内訳をみると、減少幅は「1割未満」が32.1%と最も多く、次いで「1割以上3割未満」(22.5%)、「3割以上」(6.5%)の順だった。また60〜64歳の転職後の雇用形態は「正社員」が37.8%、「正社員以外(契約社員、嘱託社員等)」が31.9%だった。

シニア層の転職には特に、汎用性のあるポータブルスキルと、高い専門的能力を備えていると有利だ。

転職がうまくいったケースであっても、シニアの転職では苦労がつきまとうことを、多数の当事者の方々への取材から痛感した。本稿で紹介した成功事例からも明らかなように、それぞれの方法で前職に在職中から新たな知識を習得してスキルを磨くなど、転職のための努力を重ねていた。そして、共通していたのが、たゆまぬ努力と飽くなきチャレンジ精神を持ち合わせていたことだった。

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