それにしても、今までに女性らしさを感じさせることなど何ひとつなかったのに? 夫は所作も荒く、身なりにもあまり気を使わない、典型的な昭和生まれの男性を感じさせる人です。今起こっていることは、何かの間違いか記憶違いだったらいいのに。一体どうしたらいいの?

混乱していた私ですが、気づくと無意識に泣きじゃくる夫をなだめ、慰めていました。あまりの衝撃的な出来事に、私の体は泣くことも、他の何の反応もできない状態でした。

「ショックで泣き出したいのは私のほうなのに」と思いながらも同時に、「人はショックを受けすぎると妙に冷静になるものだな」と自分の気持ちを分析していました。

私たち夫婦はとても順調で至極平和な日々を送れている、と思っていたのは私だけだったのかと打ちのめされる思いでした。

聞き慣れない言葉に呆然、そして絶望

「そもそも『LGBTQ』という言葉だけは聞いたことがあるけど……『トランスジェンダー』なんて初めて聞いた。『MtF』? 何の略語? Male to Femaleか……」

2018年当時は話題にのぼり始めたくらいの時期で、まだまだ現在のような認知度はありませんでした。聞き慣れない言葉に呆然としながらも、夫に一体何が起こっているのかをインターネットなどで調べていきました。

性別の違和感で悩んでいる場合、本来は専門の医療機関で半年から1年間カウンセリング治療を受け、適応すると認められれば「性別違和(性同一性障害)」の確定診断書が出され、患者は正式にホルモン治療に移行することができる、とのこと。

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夫のように、医療機関を訪ねる前に自身でホルモン剤を服用してしまうことは隠語で「フライング(ホルモン)」と呼ばれ、ままあることのようです。

しかし黙ってフライングしてしまうか、家族に相談するかはまた別の問題です。体が変わってしまうことは一生を変えてしまうことで、決して安易にホルモン剤に手を出してはならないはずですし、家族にとっても非常に大事なことです。

事前に家族に、特に配偶者に相談するか否かは、当事者の性格にもよるが、これまでの信頼関係がどのようであったかにもかかっている、という趣旨のことがネットには書かれており、何よりこれがショックでした。

「あなたたち夫婦は、本当は信頼関係なんてなかったんだよ」と突きつけられた気持ちになります。

そして、配偶者がトランスジェンダーになった場合、その夫婦がそれ以降も婚姻関係を続けていくか離婚するかは、ホルモン剤投薬の前に事前に配偶者に相談していたか否かで決まることが多い、とも書かれていました。もう為す術なし、といった気持ちです。