私は毎日の習慣として、夫のバッグからペットボトルやその他の洗い物を取り出そうとしたところ、バッグの中に何やら見慣れない錠剤があることに気づきました。パッケージを見ても全て英語で書かれていて、パッと見では何の薬か分かりません。

「外国製のサプリメントかな?」と、最初はあまり気にせず「これ何? サプリメント飲んでたんだね」と言いながらその錠剤をバッグから取り出すと、夫は血相を変えて、一瞬でそれを取り返しました。

夫のあまりの動揺ぶりにただならぬものを感じ問いただしてみますが、なかなか答えず視線も合わせようとはしません。私は今までにない不安を感じ、何度も尋ね続けたところ、ようやく答えてくれました。

「女性ホルモン剤の錠剤を個人輸入した。もう既に服用し始めてから3カ月ほど経っている」とのこと。

なぜ男性である夫が女性ホルモン剤を服用しているのだろう? 男性ホルモン剤の聞き間違いじゃないよね? 薄毛に悩んでいたから、その対処だろうか? さっぱり見当がつきませんでした。

理由を尋ねてみても、夫は挙動不審になって体がブルブルと震えてしまっています。どうもこれはただ事ではない、ということだけは分かりました。

泣きじゃくる夫の告白

夫をなんとか落ち着かせ、話してほしいと粘り強くお願いします。相当拒んでいましたが、ついに折れて口を開いてくれました。

夫が泣きじゃくりながら語った内容をまとめると、

・幼い頃から自分の体が男性であることへの嫌悪感があり悩んできた
・ただ、思考や振る舞いは他の男性と変わらないと自覚していた
・恋愛対象も女性だったため、違和感を持ちつつも年月を過ごしてきた
・20代半ばに将来を考え、これからは完全に男性として生きていくと決意した
・実際に結婚後は過去に覚えた違和感をほとんど忘れかけていた
・30代半ば頃から薄毛、加齢臭など男性特有の中年化が始まり、再び男性の体でいることに耐えられなくなった
・40代を迎えたのをきっかけに、残りの人生は女性として生きていきたいと決意した

私は考えもしなかった言葉の数々に、夫が何を言っているのか頭が回らず理解が追いつきませんでした。一体何を話しているんだろう? どこからどう見ても男性に見える夫が、ずっと女性になりたかった? そんなバカな! 容易には信じられませんでした。

夫は「女性ホルモン剤を飲み始めたら、男性的な荒々しい気持ちがウソのようになくなって、今はすごく落ち着いた気持ちで過ごせてるんだ。だから止めたくない。もうすぐ見た目にも変化が現れてくると思う」と言います。

見た目の変化って、体が女性っぽくなっていくってこと? この男性である夫がどうやって女性になるというの? ちょっと待って、勝手に決めないでよ。そんな、ウソでしょう⁉

どうしてこんなにも大事なことを、妻である私にさえ黙って始めてしまったのかを問いただすと、

「こんなこと誰にも相談できるわけないじゃん。黙って飲むのは当然でしょ」

そうなの? そういうものだろうか? これほどに夫婦の根幹に関わることを黙って始めてしまうなんて。私たちは何でも話し合える、仲の良い関係だと思ってきたのに、違ったのだろうか……。頭を強く殴られて、私の中の思考回路が消えてしまったような気分でした。