トヨタはBMWにエコカー技術を全面供給
精密な“すり合わせ製造技術”に不安のある海外の自動車メーカーにとって、EVシフトは弱みを補完する重要な方策だったはずだ。しかし、EV需要の伸び悩みで、欧米の大手自動車車メーカーがEVだけで成長を目指すことは難しくなっている。
わが国の自動車産業界は、次世代の動力源の実用化に取り組む企業が多い。トヨタはEVの安全性と、航続距離向上の切り札といわれる“全固体電池”に関する研究開発を重ね、2027年頃の商業化を目指している。同社は、“究極のエコカー”と呼ばれる水素自動車の普及も重視している。
トヨタは独BMWに燃料電池車(FCV)の水素タンク、燃料電池などの重要部品を全面供給する。新しいエコカーの商業化に向けた提携の増加は、水素の生産、安全性の高いタンク製造などの供給網の整備、コスト引き下げに必要だ。
日本車メーカーの「全方位戦略」は正しかった
ただ、今後、世界経済が減速するようだと、自動車市場の厳しさは高まるだろう。中国では、不動産や本土株の下落などの懸念から個人消費が停滞気味に推移するだろう。米国では労働市場が軟化し、徐々に自動車の需要は減少すると予想される。11月の大統領選挙後、米国政府は日欧などの自動車メーカーに米国内での生産増加を求め、応じない場合には制裁関税を課す恐れもある。
そうしたリスクに対しわが国の自動車業界は、HV、PHV、電動車など全方位の姿勢で事業戦略を執ることになるだろう。雇用や下請け、孫請けと連なる取引構造など、わが国の自動車産業の裾野は広い。
自動車分野は、近年の国内景気の持ち直しを支えた重要な要素だった。世界経済の減速リスクに対応し、国内自動車メーカーが豊富なエコカーの選択肢を世界の消費者に提示して収益性を高めるか否かは、わが国経済の中長期的な動向に重要な影響があるはずだ。