投資家の不安心理の高まりが「ボラティリティ」を高めた

8月初めの株安にしても、その後の反発にしても、根拠なき値動きではない。日本の株式市場は、従来と変わらぬ材料をもとに価格を形成していたに過ぎない。問題は、なぜこのタイミングで、日本株の記録的な暴落および急騰が発生したのか、である。

「想定外」の1つである米国の景気悪化懸念は、2020年のコロナ禍や、2008年のリーマン・ショックに伴う米国景気の急激な落ち込みとは、比べ物にならないほど小さい。もう1つの「想定外」である、日銀の利上げ決定にしても、2022~2023年の欧米各国でみられたように、インフレの急加速によって大幅かつ急激な利上げを余儀なくされたわけでもない。「想定外」が重なったというタイミングの悪さはあるものの、株価暴落の直後に起きた「過去最大の株価上昇」を裏付けるほどの好材料が現れたわけでもない。

事実として指摘できることは、8月以降の日本株が、過去に例をみないほど「上がりやすく、下がりやすかった」という点である。金融市場では、こうした状況を「ボラティリティ(相場変動率)が高い」と表現する。経済や市場の先行きを判断する材料が乏しく、かつ情報が不確実だったりすると、相場は方向感なく乱高下しやすい。多くの投資家の不安心理が高まるにつれて、市場のボラティリティも高まる。

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市場はまだ手探り状態

筆者は、日本株が乱高下した背後で、日本の長期金利が大きく変動したことに注目している。長期金利の指標である新発10年物国債利回りは、株価急落直前の1.045%(7月31日)からわずか3営業日で0.750%(8月5日)まで低下した。3日で0.295%ポイントという低下幅は、日本の長期金利の値動きとしては極めて異例である。(図表2)

筆者作成

長期金利は7月にかけて、1.0~1.1%の水準で高止まりしていた。長らく経験してきたゼロ金利という環境から、「金利のある世界」への転換が意識される中で、日本経済の実力に見合った長期金利の水準がどの程度なのか、市場は手探り状態だった。

日経平均株価が1989年以来の史上最高値を更新し、かつドル円レートも一時34年ぶりの円安・ドル高を記録する一方で、長期金利の水準は1%台に乗せたといえども、中長期的にみれば明らかに低い。

長期金利に対する「漠然とした先高観」が、7月の長期金利の高止まりと8月の金利急低下を招き、為替レートの急変動を通じて、日本株の記録的な乱高下をもたらした可能性がある。仮に、7月の時点で長期金利が低下傾向に転じていれば、結果的に円高・株安自体は避けられなかったとしても、今回ほどのボラティリティの高まりは生じなかったであろう。