「金利のある世界」とは、ボラティリティに向き合うこと
もっとも、長期金利をゼロ近傍に固定するという、ボラティリティの極めて小さい状況に慣れてきた日本の金融市場にとって、「金利のある世界」に戻る過程でボラティリティの高さに翻弄される事態は、不可避だったのかもしれない。
8月中旬以降、日経平均株価は急落前の3万9000円台に接近し、市場の乱高下はいったん収束したように見えた。しかし9月に入ると日本株は再び急落し、日経平均株価は9月4日に前日比1638円下落した。9月10日現在、日経平均株価は3万6000円台で推移しており、8月の株価急落前の3万9000円台を大きく下回っている。一方、長期金利も7月末時点の1%を下回り、0.8~0.9%近辺で推移しているが、8月上旬にみせた激しい金利変動は生じていない。
ただ今後、長期金利の水準が上方シフトすれば、長期金利のボラティリティは再び高まる可能性が高い。過去を見ると、長期金利の水準とボラティリティ(月間変動幅の12カ月標準偏差)は、概ね連動している。半面、株式相場(日経平均株価)の水準とボラティリティ(月間騰落率の12カ月標準偏差)の関係をみると、株価の下落局面でボラティリティが高まるケースが見受けられるものの、株価の水準とボラティリティの間には、明確な連動性は確認できない(図表3)。
日銀の金利操作には、もう期待できない…
「金利のある世界」においても投資家は引き続き、株価の値動きに一喜一憂することになろうが、株価の下落としばしば同時進行する円高に対し、円金利が大幅に低下することで円高圧力が軽減し、株価の下落圧力はある程度、弱まる可能性がある。円金利のボラティリティの大きさが、内外金利差(海外金利マイナス円金利)の変動幅縮小を通じて、為替レートおよび株価のボラティリティを抑制する、という構図である。
8月の株価急落前と比較した長期金利の下方シフト幅は、0.2%ポイント程度に過ぎない。重要なのは、長期金利が高いボラティリティを伴いつつも、日銀の直接的な金利誘導に頼ることなく、自律的に急低下したという事実である。長期金利の急低下によって円高が一服し、株安にも歯止めがかかったという事実は、投資家の不安心理を払拭し、将来の株価急落リスクの低下に貢献するに違いない。
かつてデフレによって正当化された、日銀による長期金利や株価への直接的な働きかけは、「金利のある世界」では期待できない。日本の金融市場は今後も「ボラティリティ」との対話を繰り返しながら、「金利のある世界」における株価や金利、為替レートの適正な水準を模索することになるだろう。