近年激増している「デジタル赤字」とは

新NISA以外にも日本円売り、外貨(米ドル)買いを構造的にしているのが「貿易・サービス収支赤字」です。まず、貿易赤字とは輸入額が輸出額を上回っている状態です。相手国に支払いをするために日本円を売って外貨を買うことで、円安圧力が強まります。

かつて貿易立国として名をはせ、年間19兆円を稼ぎ出していた日本の貿易黒字は、11~12年頃に消滅し、以降は慢性的な赤字が続いています。特に22年に約20兆円という、史上最大の赤字を記録しました。23年の赤字額も約9.3兆円と大幅に持ち直しはしましたが、これでも史上4番目に大きな赤字でした。

一貫して増え続けているのが「サービス収支」の赤字です。その額は約2兆9158億円にものぼります。サービス収支とは「旅行」「輸送」「その他サービス」からなりますが、近年景気のけん引役になっていた「旅行」部門の黒字(約3兆6313億円)をのみ込んでなお、約2兆9158億円の赤字なのです。足を引っ張ったのは「その他サービス」(5兆9040億円の赤字)です。

この「その他サービス」をさらに詳しく見てみましょう。これを構成するのは「通信・コンピュータ・情報サービス」「専門・経営コンサルティングサービス」「知的財産権等使用料」「その他業務サービス」(広告や市場調査などのビジネス関連)の項目です。

例えば、「通信・コンピュータ・情報サービス」では、1996年に▲1862億円、2014年に▲8879億円だったのが、22年は▲1兆4993億円、23年には▲1兆6149億円になっています。もともと赤字ではありましたが約四半世紀で約9倍、直近10年でも2倍近くに膨れ上がっていることがわかります。

こうした、「通信・コンピュータ・情報サービス」「専門・経営コンサルティングサービス」に、海外映画や音楽などの「著作権等使用料」を加えた「デジタル関連収支」の赤字を「デジタル赤字」と呼び、近年の赤字拡大を懸念する声が広がっています。

デジタル赤字の実態は、この10年間の我々の消費生活の変化を思い起こせばわかりやすいでしょう。今や誰もがスマホを持ち、サブスクを利用するようになりました。

スマホに溜まる一方の写真や動画を保存するためにiCloud+やGoogleDriveを利用しているのではないでしょうか。映画やドラマを見るのにNetflixやHuluを契約し、会議や打ち合わせにはZoomやTeams(Office365)を使います。

Amazonで買い物をする際には店側がAWSに利用料を支払っていますし、FacebookやYouTubeを閲覧した際に表示される広告料は、メタ社やアルファベット社の売り上げとして計上されます。デジタル関連の出費を見たとき、もはや外国企業への支払いがない人はいないのではないでしょうか。それらの支払いには円売り、ドル買いが付いて回っています。

こうしたデジタル関連サービスの特徴は、インフラとして根付いているということでしょう。「値上げする」と言われても「じゃあ、安いサービスに乗り換えよう」とはなりにくい事態が想定されます。

例えば23年8月24日、Amazonは有料会員「プライム」の年会費を4900円から5900円に、月会費を500円から600円に引き上げましたが、それを理由にプライム会員を解約した人は多くないはずです。日本法人は会員数を公表していませんが、米国では値上げ後も会員数が増え続け過去最高(1.8億人)を更新しています。日本でも会員の多くは“プライムありき”の生活に慣れていて、値上げを「仕方がない」と思いつつ受け入れていると思われます。

Amazonに限らず、海外企業によるデジタルサービス料金は、今後も値上げが続いていくでしょう。そして残念なことに、日本にはGAFAMに代表されるビッグテック企業に取って代わる存在がありません。日本がDXを推進し、私たちの暮らしがネットやITのサービスで便利になるほど、日本のデジタル赤字が膨らんでいってしまう構造になっているのです。